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地上に出たと思ったら次々とトンネルが…

 当たり前だが53キロと言えば長い距離だ。東海道本線なら東京駅から辻堂駅までの距離に匹敵する。どこが最深部だったのかは分からなかったが、いつの間にか列車は上り勾配を登っていた。そして前方に「日の光」が見えた。

「地上だ!」

 と思ったら、ほぼ連続する形で次のトンネルをくぐり、どこが正式な青函トンネルの終わりだったのかが判然としないまま、海底トンネルの旅は終わった。

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 北海道も晴天だ。

 

 しばらく走ると前方にスノーシェルターが現れ、そこから左側へと分岐する線路が確認できた。ここが木古内にある分岐点で、この列車が新幹線との共用区間を走るのはここで終了。今度は「道南いさりび鉄道線」に進入するのだ。

 この時記者は、子どもの頃のことを思い出した。

貨物列車に憧れた最初のきっかけ

 横浜に住んでいた少年時代の記者は、桜木町駅から京浜東北線で横浜駅に向かう途中、下り線の高架下のトンネルに向けて分岐していく線路があることに気付いた。聞けば貨物専用線だという。以来、注意深くトンネルに注目していたところ、一度だけ根岸から京浜東北線の線路を走って来た石油輸送列車がそのトンネルに吸い込まれる場面を目撃することができたのだ。

 旅客列車が決して走ることのない線路を走っていく貨物列車の姿を見て、「いいなあ……」としみじみと思ったものだ。言い換えれば、記者が貨物列車に憧れた最初のきっかけは、「桜木町の貨物線への分岐」にあると言っていい。

 そしていま、青函トンネルをくぐり終えて北海道に渡った57歳の記者は、木古内にある分岐点に、あの桜木町の分岐の面影を感じとるのだ。

 

 旅客列車が走れない線路を走ることのロマン――。

 新幹線でここを通り過ぎる乗客の大半が、この分岐に興味を示すことはないだろう。でも、ごくまれに記者と同じ趣味を持つ者がここから枝分かれする線路を眺めたときには、「あそこを通る列車に乗ってみたいな」と思うはずだ。記者はそんな同好の士たちを代表して、その線路に進入する。興奮は無限大だ。

津軽海峡と函館山を望む“絶景路線”

 新幹線と別れたわが列車は、急な勾配を下って新幹線の下をくぐり、午前9時09分、「新幹線の木古内駅」を見上げる位置にある「道南いさりび鉄道線の木古内駅」を通過する。

 

 道南いさりび鉄道線は、JR北海道の江差線が転換された第三セクター路線だ。電化はされているが、見事なまでのローカル線。もちろん単線だ。右手にいま潜って来たばかりの津軽海峡を見ながら走る“絶景路線”だ。新幹線と同じ線路を走る体験は珍しくて楽しかったが、やはり記者はこちらのほうが性に合っている。マスクの下の顔がニヤけて仕方ない。