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 最南端だけに、標高の高い奥地にスキー場がある。誘客にはその地理的な条件もハードルになった。

 当時は既に阿蘇山スキー場が閉鎖され、九州のスキー場は九重と五ヶ瀬の2カ所になっていた。福岡など北部九州の客は九重へ、宮崎・熊本・鹿児島の南九州3県の客は五ヶ瀬へという区域分けが進んでいった。

 経営の厳しさには、スキー人口の減少も追い打ちをかけた。

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「ただでさえ外で遊ぶより、家の中でゲームをしたり、スマホをいじったりする子が多い時代です。寒い季節に寒い場所でアウトドアスポーツをしようというような若者は減っていきました。スキーをする若手世代が都市部へ流出し、人口が減ってしまったのも影響していると思います」と小笠さんは分析する。

 このため近年の集客目標は3万5000人、3万2000人、3万人と落としてきたが、それでも暖冬などの影響があり、達成できない年が続いている。2018年12月から19年3月までのシーズンは、ゲレンデに雪が降ったのがたったの1週間。このうち積雪に結びついたのは3日だけで、10cm以上積もったのは1日という有り様だった。こうした問題は南のスキー場ほど深刻になる。

初雪が降った五ヶ瀬ハイランドスキー場。今はもっと積雪量が増えているだろう(五ヶ瀬ハイランドスキー場撮影)

窮状に追い打ちをかけたのは新型コロナウイルスだった

 新型コロナウイルス感染症でもかつてない影響を受け、2020年12月から21年3月のシーズンは、ついに入場者数が1万6463人に落ちた。最盛期の5分の1以下になってしまったのである。

 ただし、昨シーズンは少し持ち直した。降雪量が多かったので、入場者数が2万4756人にまで戻ったのだ。コロナ禍で団体や修学旅行は皆無に近く、目標とした入場者数の3万人には遠く及ばなかったが、それでもコストカットで1100万円を超える黒字を計上した。

「約2万5000人しか入場がなくても黒字にできました。今冬は雪が多そうだから、この調子で入場者が増えたら、さらに黒字化できるとスタッフと意気込んでいました」と小笠さんは語る。

 準備は着々と進めていた。

 スキー人口の減少でスキー場が次々と閉鎖される中、残ったところが手を取り合って生き残ろうと、九重森林公園スキー場とのコラボを強化した。どちらかのリフトのシーズン券を買った人が、もう一方を訪れた時には1日券を半額にするサービスを導入したのだ。その前売りが好調で、昨シーズンを超える販売枚数になっていた。9月には各地に営業に出掛けるため、パンフレットやポスターを印刷し、訪問先をリストアップして誰がいつどこに行くかという振り分け作業も終わった時だった。

 2022年9月18日から19日にかけて、台風14号が九州を直撃し、宮崎県に深い傷痕を残した。

スキー場へのアクセス道。山が崩落して、道路がなくなっていた。ここから先には進めない(五ヶ瀬町)©葉上太郎

 五ヶ瀬町内で最も激しく被災したのは、スキー場へ向かうアクセス道だ。ズタズタと言ってもいいほどだった。

 現場を見に行った。