小笠さんが支配人に就任したのは2021年8月だ。その前月までは4期16年間、町議を務めた。五ヶ瀬で初めての女性町議。議長も通常は2年交代のところ、4年間も任された。町の商工会長や、観光協会の理事長としても活躍した。
そもそも議員になったのは、夫に「女性が立候補すべきだ」と勧められたからだ。それまでは家族で茶農家を営み、主に販売や経理を担当してきた。五ヶ瀬町の特産になっている緑茶は、国内で1%しか流通していない「釜炒り」だ。その魅力を発信しようと、農家の直売で広めたのが小笠さんだった。5軒の専業農家で「新緑会」を結成し、各農家で味が違う飲み比べセットなども販売してきた。
そうした手腕と行動力を見込まれての町議であり、商工会長であり、観光協会の理事長だったが、三セク支配人としては営業力の強化が使命だ。つまり誘客拡大が第一の目標である。
「女の子が来れば、男の子は絶対にくっついてきます」
そこで考えたのは、五ヶ瀬ハイランドスキー場で経験した楽しさを、スキーヤーそれぞれにSNSで発信してもらおうという戦略だった。
「例えば自分達が滑った動画をアップしてもらうとか、インフルエンサーに五ヶ瀬のスキーを体験してもらうとか、様々なやり方があると思います。そうすることによって本当に来てもらいたい人々に情報が伝わるのではないかと思うのです。社員には『女の子をターゲットにしなさい』『女の子が来たいと思うのは、どんなスキー場なのか考えなさい』と言っています。女の子が来れば、男の子は絶対にくっついてきます」
男目線の“物語”を一方的に流してきたテレビCMからは大転換になるだろう。
「あまり知られていませんが、五ヶ瀬は日本で最も四季の移ろいがハッキリした町の一つです。春にはシダレザクラ、そしてシャクナゲ。夏にはホタル。寒暖差があるので野菜が美味しく、新茶も味わえます。秋は紅葉。町全体が美術館みたいになり、ワインを仕込むためのブドウも収穫時期です。冬は雪、そして香り豊かなシイタケ。見て、味わって、五感で楽しめる町なのです」と語る。そうした発信の強化もしていくことになる。
その取り組みの初年度が今冬になるはずだった。
だが、これまでのところ、
「来期こそは皆様と一緒に冬を迎えたい!
と、せつに願っております。」
という、わびしい投稿ぐらいしかできていない。
「これまで、冬はスキーシーズンで忙しく、他のスキー場を訪問できませんでした。今年は社員で視察に出掛け、新しい知恵を生み出すための期間にしたいと思います。ピンチをチャンスに変えたい」と小笠さんは前向きにとらえる。
南国にあるからこそ、気候変動や台風災害の影響を受けやすい最南端のスキー場。しかし、そこには奇跡のようなパウダースノーがある。そして四季が美しく、おいしい町でもある。被災をバネにして、そうした魅力をどこまで伝えられるか。
再オープンできたら、皆さん自身が「南ちゃん」になって、発信しに行きませんか。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。