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目にしたのは想像を超える惨状だった…

 国道近くでシャトルバスに乗り換える駐車場。川を渡って駐車場に入るための橋が、基礎から破損して、駐車場に渡れなくなっていた。

町道とシャトルバスに乗り換える駐車場を結ぶ橋は基礎が破断していた(五ヶ瀬町)©葉上太郎

 スキー場へ向かう町道は、最後の集落を過ぎた辺りから、豪雨に流されたアスファルト舗装が陥没して、ボコボコになる。そこを何とか通り過ぎても、土石流で完全に道が失われていた。山が崩落し、町道を呑み込んで川底に流れ落ちていたのだ。

「その先も寸断状態で、路肩の崩落で道路がほとんどなくなってしまった場所や、道路を流れた水で身の丈ほどの深さに掘れた場所があります。今冬の営業は断念せざるを得ませんでした」と、小笠さんは肩を落とす。

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 これほどの災害となれば、町単独の予算での復旧は無理だ。国などの補助を受けるには測量、査定、設計、予算案の議会審議などが必要で、少なくとも春以降の工事着手となる。「そのような時期からの工事では来シーズンも間に合わないでしょう。下からだけでなく、上からも工事を進めて急いでほしいと行政機関には要望しています」と小笠さんは言う。

スキー場へのアクセス道。町道が完全に崩落していた(五ヶ瀬ハイランドスキー場撮影)

 営業休止の影響は大きい。

 季節雇用の農家は冬の仕事を失った。臨時で九重森林公園スキー場に働きに行っている人もいるという。

「スキー客が泊まっていた旅館や民宿も、今は復旧工事の関係者が宿泊しているようですが、長期化すれば影響が深刻化します。スキー場の仕入れ業者はまるまる収益減になりました。沿線のガソリンスタンド、コンビニエンスストアなどへの影響もあり、町内以外にも広い範囲でダメージがあります」

 小笠さんが心配するのは「潰してしまえ」という声が出かねないことだ。

スキー場の営業に反対する人々の声

 20万円以上の備品購入費や施設整備費は町が負担してきたので、従来からその分は福祉や教育に回すべきだと考える町民がいたのである。

 しかし、小笠さんは「もはやスキー場は五ヶ瀬町の代名詞です。なくしてしまうにはあまりに影響が大きい」と指摘する。

 前述したように、冬期は出荷できない農家の貴重な収入源だ。「もし、これが断たれたら、町を出て行かなければならなくなる人もいるのではないでしょうか。農業以外では、役場や農協ぐらいしか職場がない町なのです」と小笠さんは不安を隠さない。スキー場の仕入れや、スキー客の消費・宿泊で回ってきた町内経済も無視できないだろう。「冬場の約80日間で2万50000人もの集客ができる施設は宮崎県内にもありません」。小笠さんは断言する。

 さらに「五ヶ瀬町の子供はスキーができます。自分のウエアやボードを持っている子がいるほどです。そうした教育的な効果は大きく、やがて進学で町を出て行った時の自信にもなっていると聞いています」と言う。

 ただ、三セクは会社全体の繰越利益剰余金がマイナス3億9500万円を超える。極めて危機的な状態だ。しかし、これらの赤字を生み出しているのは、温泉宿泊施設「木地屋」の方で、開業から1期しか黒字になったことがないという。