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子どもを託した「養親」に対する思い

 現在、陽菜さんは実家から出て、一人暮らしをしている。その後6回のチャレンジの末、高卒認定を受け、最近、中卒ではなくなった。工場での働き口も得て、少しずつ貯金もでき、将来は医療事務の資格取得を目指している。休みの日に好きなラーメンを食べに行くことが、ささやかな幸せだ。

「養親さんは40代で、温かいご夫婦」という情報以外、児童相談所からは何も知らされていない。でも会いたいとはまったく思わない。自分が産みたくて産んで、育てたかった子を、別の夫婦が育てている。会ってしまえば、悔しくて、嫉妬してしまいそうな気持ちが、正直あるから。でもそれ以上に、養親には感謝の思いで溢れている。

「児童相談所の担当者さんからは、“養親さんには、住まい、経済状況、身内がどんな方なのかまでしっかり調べたうえで託します”と伺いました。きっと、生活が安定した優しいご夫婦のもと、コウも好きなものを食べさせてもらっていると思います。

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 コウの誕生日って25日なんですよ。25日といえばお給料日。少なくとも、コウは誕生日にはおいしいものを食べさせてもらっているはずです。コウも好きなものが食べられ、私も今こうして自分の力で生活して、好きなものが食べられている。あのまま私が育てていたのでは、こんな未来はきっと叶わなかった。だから、私も一緒に、養親さんに救ってもらった。二人で幸せになれた。養親さんは神様のような存在です」

コウ君の誕生日には、毎年ケーキを買ってお祝いしているという(陽菜さん提供)

地元では「子供を捨てた女」と噂されているが…

 今、陽菜さんは地元で「子どもを捨てた女」と噂されている。だが、今回、陽菜さんがこの取材を受けようと思ったのは、特別養子縁組で子どもを託した親には、望まぬ妊娠でもなく、子が嫌になったわけでもなく、「幸せに育ってほしかったからこそ、手放した」親もいることを知ってほしかったからだという。

 もちろん、自分たちで産んだ子を、自分たちで幸せに育てるのが、最善であることには違いない。それを放棄することに対し、無責任と批判されてもしょうがないのかもしれない。でも、陽菜さんについて言えば、シングルマザーが産後に安心して子どもを預けて働くための情報やサポートが行き届いていたら、元夫が養育費を払っていたら、そもそも小学生のときに児童相談所が適切に保護していたら、状況は変わっていたかもしれない。