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「現在、アガベは世界的なブームになりつつあり、自生するメキシコやカリフォルニア産の株が高騰しています。そのクローンを育てるべく、気候条件が適している台湾では『台湾アガベ』としてブランド化されているほどです」(小寺さん)

 たかが植物と侮るなかれ。グラキリスやパキプスが自生するマダガスカルは、これら塊根植物の輸出が大きな国益になっているとも言われ、現地にはこうした植物で財を成した「グラキリス御殿」「パキプス御殿」が建つほどだ。世界的な人気を誇る塊根植物やアガベは、種苗業者にとっても“金のなる植物”となる。

塊根植物による国益が大きいという話もあるマダガスカル

 それだけではない。ワシントン条約(CITES/サイテス)による、希少植物の輸入規制次第では、塊根植物ファンを巻き込む狂騒曲に発展しかねないというのだ。

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「現在、グラキリスとパキプスは『附属書Ⅱ』に該当します。『附属書Ⅰ』になると、商業目的の国際取引が禁止されてしまうため、輸入ができなくなります。マダガスカルに自生するグラキリスとパキプスの数が減少してきているため、『附属書Ⅰ』に格上げされるという噂話が毎年あります。もちろん、しっかりとした会議がなされているとは思いますが」(小寺さん)

 このうわさが現実になれば、グラキリスとパキプスの価格はさらに高騰することになる。

「マダガスカルは塊根植物による国益が大きいという風なことを聞きますので、それが本当ならそうならないとは思いますが」と小寺さんは牽制しつつ、「海外の輸出業者の中には、『いま買っておいた方が将来的にはいい』と交渉してくるケースもある」と明かす。

「個体数の減少は避けられず、環境保護の観点から良いバランスを保てたら良いなと思っていますが、売り手側にとって、とても有利な状況になりそうな点は懸念しています。世界的なブームになりつつあるからこそ、我々も常に情報をアップデートしていかなければいけない状況にあります」(小寺さん)

 これだけの希少植物を手軽に購入できてしまう今だからこそ、初心者は専門ショップなどでしっかりとした情報を入手したほうが良さそうだ。そもそも、植物という命を扱っていることを忘れてはいけない。

塊根植物ブームから見えてきたもの

 それにしても――。目の前のかわいらしいフォルムの植物たちを眺めていると、「これが数十万もするのか」と不思議な気持ちになってくる。

 半面、美術品のような価値を持ちながら、年に一度(アガベにいたっては一生に一度)しか花を咲かせないといった生命力を持ち合わせる姿に、なんとも言えない愛着を抱いてしまう。しかも、リセールバリューまで秘めているのだから、人気になるのも納得してしまう。塊根植物の人気は、まだまだ広がりそうだ。

「私は草木の栄枯盛衰を観て人生なるものを解し得たと自信している」とは、“日本の植物学の父”と呼ばれる牧野富太郎の言葉だ。

 塊根植物を見ていると、人間の“欲”が伝わってくるようだ。