朝ドラで「重い」役を見事に演じきった
永瀬廉はジャニーズ事務所のグループ『King & Prince』に所属するアイドルであり、俳優として出演した作品の数は広瀬すずに比較して多くはない。だがその出演作での演技の評価は極めて高い。
永瀬廉がもっとも広く知られるきっかけになったのは連続テレビ小説『おかえりモネ』の及川亮を演じたことだろう。東北の被災者として苦しむ青年を演じ、幼馴染である主人公の百音に「ごめん、綺麗事にしか聞こえないわ」と被災地の現実を突きつける演技は、半年にわたる『おかえりモネ』のテーマの根幹を支えるものだった。
一般的に朝ドラにおいて、これほど「重い」役にジャニーズ事務所のアイドルをキャスティングすることは異例なのではないか。単に演技力の問題だけではなく、被災地と東京の格差という残酷な問題は東京の視聴者に反発を受けかねないテーマであり、ひとつ間違えば社会的な批判を受けかねないリスクの高い役だからだ。
とりわけ主人公と複雑な関係にある及川亮という役は、単に人気があるという理由でアイドルに任せるにはあまりに難しい背景のある役に思えた。
だが永瀬廉は、及川亮という役を自分のものとして消化し、半年にわたるドラマを支え、抜擢に応えた。SNSでは坂口健太郎が演じた東京のハンサムな青年医師「菅波先生」がアイドル的な人気を博したが、本業がアイドルである永瀬廉があえてその輝きを消し、被災地の現実と悲しみを演じた力量は俳優としての評価を高いものにした。
何万人ものファンの歓声を浴びてステージで輝くアイドルであるにも関わらず、永瀬廉のまなざしと声の響きにはどこか深い憂いと哀しみがある。
朝ドラの後でNHK時代劇の主役に抜擢された『わげもん~長崎通訳異聞~』で演じた「和解者(わげもの)=通訳」である伊嶋壮多もそうなのだが、彼が通訳として日本人と外国人の対立の間に入る山場の場面で、視聴者は永瀬廉の外国語の流暢な発音だけではなく、その声の響きが持つ哀しみと静かさに自然と引き込まれ、耳を澄ませてしまう。
まるで映像のフォーカスが一点に合うように、永瀬廉の声には視聴者の耳を傾けさせる力があり、だからこそ『おかえりモネ』の制作陣は、被災地の若者が「綺麗事にしか聞こえない」と主人公に言い放つ、決定的な重い一言のセリフを彼に任せる決断をしたのだろう。