世界経済が破綻した裏事情を描く『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で、3度目のオスカー候補入り。その次の作品に当たる『THE PROMISE/君への誓い』は、20世紀初頭に起きたアルメニア人虐殺を語る重いドラマだ。政治的、社会的テーマが続いたのは、本人いわく「偶然」。
「どちらも僕が惹かれる作品だったというだけ。今作には、いろんな意味で惹きつけられた。恥ずかしいことに、アルメニア人の虐殺について僕は何も知らなかったんだ。そして、ほかの人もあまり知らないとわかった。150万人が殺されたというのにね」
物語の舞台はコンスタンチノープル(現イスタンブール)。米国人記者のクリス(ベイル)は、医者志望のアルメニア人ミカエル(オスカー・アイザック)と、ある女性をめぐって三角関係に。そんな中で大虐殺が起き、3人の運命は思いがけない方向に進んでいく。
今作は世界中で公開されたが、アルメニア人虐殺を「なかった」と主張するトルコで公開予定はない。環境問題の提唱者であるベイルは、地球温暖化との共通点を見る。
「それは実際にあることで、証明もされている。なのに、ない、なかったと言う人がいる。現役の米大統領で、アルメニア人虐殺があったと認めた人は、まだ誰もいないんだよ。オバマは就任前には認めたが、在任中は違った」
13歳の時、スピルバーグの『太陽の帝国』で映画デビュー。演技派として仲間内で評判を高めてきた彼が世界的な大ブレイクを果たしたのは、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」3部作だ。次のバットマンをベン・アフレックが演じることになった時、「トイレに行きやすいよう、バットスーツにファスナーをつけてもらうように」とアドバイスをしたが、アフレックのバットマンは一度も見ていないという。
「スーパーヒーロー映画は、クリスが作ったもの以外、どれも見ていないんだ。今後、自分で出るつもりもない。これだけ作られているということは、まだまだ語るべきストーリーがあるということなんだろうけどね」
役によって驚くほど体型を変えてみせるのも彼。だが、また太ることが必要となるフェラーリ創設者の伝記映画は、健康への害を気にして辞退したと報道された。その真偽を聞くと、「そう。体が反対しているんだ。僕も人間だし、こういうのをやれる回数には限度があると思って」と認めたが、この取材からしばらくしてまた会うと、見分けがつかないくらい太っていたのだ。理由は、次にディック・チェイニーを演じると決めたため。フェラーリにそこまでの価値はないが、チェイニーならあるとなれば、やはり彼は、政治、社会派づいているということか?
クリスチャン・ベイル/1974年イギリス・ウェールズ生まれ。1987年、スピルバーグ監督の『太陽の帝国』で主役を演じ映画デビュー。『アメリカン・サイコ』での殺人鬼役や、『マニシスト』では30キロ近い減量を果たすなど演技派として名高い。2011年、『ザ・ファイター』でアカデミー助演男優賞を受賞。
構成:猿渡由紀