『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』(新川帆立 著)集英社

「法律にフォーカスしていますが、元々ブラックユーモア小説、風刺小説をやりたかったんです。好きな作品でもある、筒井康隆さん『最後の喫煙者』や東野圭吾さん『笑小説』シリーズなども念頭にありました」

 デビュー作『元彼の遺言状』、『競争の番人』が、昨年フジテレビ系月9枠で立て続けにドラマ化された、元弁護士で作家の新川帆立さん。最新作『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』は、架空の法律をモチーフにした六編からなる短編集だ。

「実はSFかファンタジーでデビューしたかったんです。一旦断念して、自分の属性に近い弁護士ものがデビュー作になりましたが、今回は法律をテコにSFを書くという“領土拡大”の第一歩でもあります。社会科学のサイエンスフィクション、文系SFだと言いたい。サイエンスフィクションのサイエンスには、自然科学だけでなく、社会科学も含まれると思うんです」

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 高校生の頃から小説家志望だった新川さんは、別の仕事をしながら賞を狙うため、収入に困らない専門職に就こうと考えた。東大法科大学院を修了した後、弁護士として勤務した。

「たとえば私が勉強してきた法学も、長い歴史の中で理論が積み重なって、日進月歩で発達してきた学問。新しい法律ができたら、そのために何らかの社会の変化や問題が出てくる。それはいわゆるSF作品での、新しい技術が生まれたことで、人々の考えが変わり、問題が起きる構造と同じだと思っています」

 今回の短編集は、いわばパラレルワールドものだ。

「現代社会をベースに、一つだけフィクションが入っているイメージです。六つの“レイワ”それぞれの世界にちょっと変な法律があって、その法律に振り回される人々を描いています」

撮影/野田若葉(TRON)

 第一話「動物裁判」は、全動物に生まれながらに命としての権利があるとした〈礼和四年「動物福祉法」及び「動物虐待の防止等に関する法律」〉。第二話「自家醸造の女」は、家庭料理ならぬ家庭醸造を奨励する〈麗和六年「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達(通称:どぶろく通達)」〉。

「架空法律による余波や影響は、あくまで現実的に考えました。彼らの様子は一見すると滑稽かもしれませんが、翻って考えれば、私たちが生きているこの令和もそうかもしれない。『酒税の税収が減っている。若者の酒離れをどう防ぐか』みたいな方向に議論が行っている国ですから」

 タイトルに込めた意図もそこにあった。

「はっと気付くこと。現状に批判的な眼差しを向けること。そうした意識を持つことが、健全な反逆なんじゃないかな、と思います」

 弁護士になる前、1年間プロ雀士としても活動していた新川さん。作家デビュー後に文芸誌に最初に書いた短編が、第六話「接待麻雀士」。〈例和三年「健全な麻雀賭博に関する法律(通称:健雀法)」〉により、認知症予防の名目で賭け麻雀が合法化された日本。贈収賄を適法に行うべく企業が雇う接待麻雀士の塔子は、接待中いつものように卓上に集中しようとするが……。

「塔子には当時の私が考えていたことも反映されています。小説を書くのが楽しいし、上手くなりたいという気持ちを中心に生きているけど、それで大丈夫なのかな、世の中のことを本当に見られているのかな、みたいな気持ちがあって」

 本書は「書きたかったことを書けた」という。

「いい意味で読者さんをあんまり意識せずに書けました。手加減なしのところも見てもらえるかな、と」

しんかわほたて/1991年生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法科大学院修了後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に『元彼の遺言状』でデビュー。他の著書に『剣持麗子のワンナイト推理』『競争の番人』『先祖探偵』などがある。