ある日、家を訪れた友人に「女の子を連れてくるから車を貸してくれ」と言われ、吉永さんは車のキーを渡した。それが恐怖の始まりだった。
「30分で帰ってくるはずが、3時間たっても帰ってこない。そしてやっと帰ってきたと思ったら、友人は変な汗を流しながら『タクヤの車がバイクにぶつけられた、車は下に置いてある』と言って逃げるように去っていったんです。急いで見に行くと、バンパーがボコボコになった俺の車をギャングが取り囲んでいて、近くにはぐちゃぐちゃになったバイクが転がっている。そしてそのそばに若い女性が倒れていました。足が曲がってはいけない方向に曲がり、耳や鼻からも血が流れていました……」
吉永さんはその場にいた警察官に警察署へと連行され、友人が2人乗りのバイクと接触事故を起こしたことを伝えられた。吉永さんが見た倒れた女性は後部座席に乗っており、意識はないようだった。「女性の仲間のギャングがキレている。連れてこなかったらお前の命が危なかった」と言われた。そして事情聴取中の警察官に連絡が入った。
「女性が搬送先の病院で息をひきとった」
「5日以内に日本円で1000万円払え。でなければ殺す」
その日のうちに自宅には帰れたが、ギャング達は吉永さんを血眼になって探しており、同日中に、自宅を特定され鉢合わせてしまう。
「俺の女を返せ。5日以内に日本円で1000万円払え。でなければ殺す」
明らかに薬物で目つきがおかしい5人の男に囲まれて、そうすごまれた吉永さん。「殺す」というセリフは暴走族時代から何度も聞いてきた吉永さんだったが、ブラジルで聞くその言葉の恐怖は全く異次元のものだったという。
「『自分が運転していたわけではない』なんて言葉が通じるとはとても思えませんでした。ただただ刺激しないように『分かった、金を用意する時間をくれ』と言ってその場をどうにか切り抜け、すぐに荷物をまとめて町を出て、サンパウロから日本へ飛びました。南米生活で最も怖かった瞬間は間違いなくあの時。それ以降、ビアモンには行っていません」
失意の帰国、しかし吉永さんは再びブラジルの地を踏むことになる。
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