容姿や属性をいじられ、インパクトを残すことが成功への足がかりとされてきたお笑いの世界だが、近年世間の価値観の転換に伴い、大きな変化が起きている。そんなお笑い業界で活躍する、様々な世代の女性芸人に話を聞いたウェブ連載「女芸人の今」が、『女芸人の壁』として書籍化された。
2022年12月30日、下北沢本屋B&Bにて『女芸人の壁』の著者の西澤千央さんと、気鋭の若手芸人、Aマッソの加納愛子さんの対談が実現。加納さんの環境の変化や、西澤さんによる上沼恵美子さんへのインタビューの裏側、芸人を目指す人へのアドバイスなどについて語った。(聞き手:「文春オンライン」編集長 竹田直弘)
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ロールモデルはないけど、感情モデルはある
ーー加納さんは、今年はご自身の環境に変化はありましたか? ますます活躍の場が増えていると思いますが。
加納 あんまり実感はないですね。忙しかったなとは思いましたけど。あと、去年の3倍ぐらい謝ってますね、「待ってください」って。
西澤 そういう意味で、加納さんは、ロールモデルみたいな人はいるんですか。
加納 ロールモデルのロールってどういう意味でしたっけ。
西澤 役割。
加納 役割ね。感情モデルならあります。立場モデルはないけど、この感情を頼りにすることは教えてくれた、みたいな要素はあるから、そこまで不安じゃない。
西澤 その感情というのは?
加納 こういう時にこういう選択をしたほうが自分が豊かになる、みたいな。特定の誰かというよりは、この人のこの部分、とかなんですけど。たとえば、ガロインってコンビが言ってた、「迷ったら怖いと思ったほうに行け」とか。
西澤 「怖いと思ったほうに行け」っていうのはすごいな。
加納 結局は、環境と感情があって、その掛け算じゃないですか。環境も成功してるし、感情も満たされてるのが成功やとして、どういうバランスだと自分にとっていいかがちょっと分かってきたというか。
爆売れしてても目がうつろな人とか居るんですよ。そうならんために、どの感情を指針にしようって。そんな感じでやってます。
西澤 でも、そのバランスをいとも簡単に崩しちゃうのがかつてのテレビだったと思うんですよ。 自分ではそのバランスをうまいことコントロールしづらいというか。
加納 だから、今の意見は、マジ温室育ちの意見やと思いますよ。私らは時代の追い風がエグかったんです。こんなのほざけるもん。それまでは「ほざかんと働け」って言われてたと思いますからね。