いやいや、それ空いている日と違うでしょ
――里見さん、この数年ですごく強くなりましたよね。
畠山 奨励会を退会したときは落ち込んでいて心配しましたが、今はのびのび指せるようになりました。これは谷川先生の影響が大きいんです。
私とVSをやっていたときは私の悪い影響を受けて、戦法が固定している上に、ちょっとでも知っている形にしようと、作戦が保守的になっていました。対して谷川先生は、研究会では普段指さない戦型にチャレンジしています。先手中飛車に対して、角道もあけずに飛車を振ったりとかね。しかもすごい勝ちに行くんです。「知らない戦型だからこそ勝ちにこだわる」という影響は大きい。
里見さんは研究会に参加してから戦型の幅が広がりました。多少悪くなっても気にせず新しい形にチャレンジしています。以前は中飛車ばかりだったのが、今は普通の四間飛車も指し、結果を残しています。
――研究会での里見さんはどんな感じですか。
畠山 研究会の日程を決める時、里見さんは「この日もこの日も空いています、よろしくお願いします」と言うんです。しかし、「空いている」といっても東京での対局の翌日だったり、逆に翌日が東京での対局とかなんです。タイトル戦の遠征の前後なんてのもしょっちゅうです。これには谷川先生も驚いていました。いやいや、それ空いている日と違うでしょ、休養日でしょ、移動日でしょと。それじゃ体を休める時間がないでしょ、と言っても聞かないんです。
体調を崩していたことにも気がつけず
――私が一番ビックリしたのは、千葉県でタイトル戦を指した翌日に大阪でA級順位戦の記録を取っていたことです。清水さん(現女流七段)と女流名人戦1勝1敗で迎えた重要な第3局で、勝ちましたが終局は午後5時。その翌日朝から関西将棋会館で順位戦A級の記録を取っていた。その終局は0時52分ですよ。2013年には8月~10月まで3ヶ月連続で畠山さんの順位戦での記録を取っていました。記録係としての様子はどうですか。長時間の棋戦の記録係は体力的にも大変ですが。
畠山 そんなことがありましたか。そういう人ですから(笑)。無理をしてでもやっちゃうんですよ。
記録係のときはずっと正座で、感想戦をしているときでも足を崩しているのは見たことがありません。そして、自分ならこの局面どうするかと真剣に考えていることがわかります。確かに勉強になるとは思うんですけど、タイトル戦で忙しいのに長い将棋の記録ばかり取るのはどうかと心配はしていました。
谷川先生や羽生さんを見ていて、スーパースターはどんなに大変でも忙しくてもこなしてしまうと勝手に思っていたんですよ。しかも彼女は周りに気を使って、体調を崩していたことにも気がつけず、とても後悔しています。