プロにするのなら試験はなくてよかったのでは
――編入試験が終わりました。感想をうかがいたいのですが。
畠山 彼女はギリギリまで迷ったと思うんですよ。精神的な支えとなった妹さん(川又咲紀女流初段)や井上慶太常務理事、脇謙二専務理事にも相談して決断したのでしょう。私は正直に言えばメリットは薄いと思っていたんです。現在でも多くの公式戦に出場していますから(※筆者注:女流タイトルホルダーとして、竜王戦、王位戦、王座戦、棋王戦、棋聖戦、朝日オープン、NHK杯(代表決定戦あり)、加古川青流戦に参加できる)。今でも女流戦と公式戦で忙しいのにと。
里見さんほどの方が試験を受けること自体も疑問に思っていますけどね。プロにするのなら試験はなくてよかったと思いますし、今の制度では里見さんにメリットがなかったと思っています。里見さんには私の考えは伝えていませんが。
誰かが踏み出さなければならないから、偉大な第一歩だと思いますけど、制度が里見さんにフィットしていませんでした。それでも試験に落ちた後、白玲戦で西山さんに勝ってタイトルを獲ったのはさすがでしたね。
試験官の新四段側から見れば、里見相手に負けても何も言われることはないし、自分が勝ちたいと思っている棋士に勝つということで、プレッシャーはあまりなかったと思うんです。一方で里見さんは女性代表と言われ、大きな期待を背負って、タイトル戦と試験でスケジュールが厳しく……大変でしたよ。女流棋士第一人者として、新会館建設のクラウドファンディングの仕事もこなしていましたしね。荷物を背負いすぎなんです。
真面目すぎるんです。
棋士っていうのは勝負に厳しい反面、どこかのんびりとしているというか抜けているところがあると思うんですけど(笑)。やることに強弱をつけているというか。ところが里見さんはどれも手を抜かない、優先順位をつけることがないんですよ。
指す将棋にしてもそうです。編入試験があるからこの研究は取っておこうとか、早指しで体力を温存しようとかがないですよね。タイトル戦を見ていてもわかります。1局目は変化球を投げようとかはない。常にすべての最新研究を出して全力投球です。
――最後に、里見さんにエールをお願いします。
畠山 いまさら私がアドバイスすることもないですが、体調に気をつけて、将棋の面白いところをもっともっと掘り下げて、将棋の真理を追求しつつも楽しんでいただきたいです。