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 私は将棋世界の付録で「新手年鑑」を年1回書いているが、そこで里見の女流棋戦での新手を取り上げた。相振り飛車の後手番で里見が指した後手の△4五銀。後にプロ公式戦でも採用され、定跡に組み込まれた。棋士たちが伸ばしてきた定跡の枝に、女流棋士が生み出した枝が継ぎ足されたのだ。

 里見は奨励会に入会すると、記録係も積極的に務めていた。持ち時間の長い順位戦も30局以上こなしている。自身のタイトル戦翌日に記録係を務めたのは先述のときだけではない。同じ2016年5月12日、兵庫で岩根忍女流三段と第27期女流王位戦第1局を指し、翌日には関西将棋会館で菅井竜也七段-大石直嗣六段(第42期棋王戦予選)の持ち時間4時間の対局で記録を取っている。久保、菅井と振り飛車党の大家の将棋を間近に勉強することで少しでも強くなりたい、四段になりたいという思いが伝わってくる。2017年には、藤井聡太四段-瀬川晶司六段のC級2組順位戦の記録係も務めている。

 だが三段リーグで結果は出なかった。2018年3月、リーグ戦では1度も勝ち越すことができずに、年齢制限の26歳で退会した。奨励会を辞めたあとの飛躍ぶりは、いまさら述べる必要はないだろう。里見は強くなり続けてきたのだ。

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 里見について、この人物に話を聞けたなら文章にしようと私は決めていた。畠山鎮八段である。

2022年5月、第48期棋王戦予選トーナメントで古森悠太五段(写真右)との決勝を勝ち、女性初の「タイトル棋戦本戦出場」を達成した ©相崎修司

里見さんの情熱に負けたというか迫力に押されたというか

――里見さんとの接点はいつからですか。

畠山 彼女が出雲から大阪に出てきた19歳の頃(奨励会1級時)です。私が主宰している、短い持ち時間でたくさん指すオープンな研究会に参加してきたのがきっかけです。そこで「VS(練習対局)をお願いします」と言われました。私の師匠、森安正幸七段は、級位者には将棋を教えないという方針だったんですよ。

 私は当時40歳くらい、まだ血気盛んだったんで、「まだ君は1級だから」と断ろうとした。ところが里見さんの情熱に負けたというか迫力に押されたというか、気がついたらなぜか「はい、いつにしますか」と答えちゃって(笑)。そしたら彼女はすぐに、この日もこの日もこの日も空いていますってね。

――じゃあもう10年以上ということですか。

畠山 そうです。今はVSではなく谷川浩司十七世名人の研究会で指しています。

 この研究会は、里見さんが奨励会を退会した後から始まったものです。里見さんがちょっと元気なかったということもあり、里見さんとは幼馴染の菅井さんが気にかけて、菅井さんと谷川先生とで彼女に声を掛け、私も呼んでいただきました。谷川先生の自宅で4人で研究会をやっています。新型コロナウイルスの感染状況がひどかったときは中断していましたが、定期的に月1回、4年近く続いています。