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現在の危険度は第2段階

――まず、中国はどのような戦略で台湾の取り込みを考えているのか教えてください。

 いくつかの段階に分かれています。本来、中国としても最も望むのは、武力を用いることなく「平和的」に台湾を統一することです。馬英九政権時代(2008~2016)、両岸関係は非常に密接になりました。中国は台湾の農産品を大量に買い付け、中国人留学生(や観光客)を大勢送り込み……と、人的交流による取り込みを模索したわけです。

 しかし、馬英九政権末期のヒマワリ学運(親中国路線を批判して起きた大規模な学生運動)と民進党の蔡英文政権の誕生によって、この戦略は失敗します。そこで、さらに台湾の若者を対象にしたソフトな政策をとります。

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2014年3月、当時の馬英九政権の急速な対中接近に反発した学生らが起こした「ヒマワリ学運」の現場。経済的利益の魅力は大きいものの、台湾の民意は過度の対中接近にノーを突きつけた。筆者撮影。

――学生運動や蔡英文の選挙を支えた台湾の若者に、中国大陸での就職に優遇措置を設けるなどして懐柔を図ったわけですね。ただ、こちらも2019年の香港デモによって、台湾世論の中国への不信感が高まり失敗します。蔡英文も2期目の当選を果たしてしまいました。

 はい。そこでグレーな段階に入ることになりました。とはいえ、孫子の兵法に「不戦而屈人之兵、善之善者也」(戦わずに敵をくじいてこそ最良の方法である)とありますように、すぐに直接的な武力は用いません。航空機や艦艇の接近や軍事演習を増やして脅すわけです。

 1996年の李登輝政権当時の台湾海峡ミサイル危機や、2022年8月にアメリカ下院議長のペロシ氏の訪台直後に行われた大規模な軍事演習がそれです。すなわち、現時点の状況はこのグレーな段階にあります。