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中国と台湾という「孫子の軍隊」の対峙

――孫子の兵法は中華圏の軍人の発想の基礎でしょう。戦わないで勝つ、戦う場合は短期決戦、情報を重視する……。

 ええ。あちら側もわれわれ側も、孫子と三国志の軍隊です。軍人はみんな読んでいるわけですからね。あとは(1920年代の国共合作のなかで作られ、蒋介石が校長、周恩来が政治部主任を務めた)黄埔軍官学校の歴史も、両軍で共有している。アメリカが本気で中国の軍事を研究しはじめたのは1989年の天安門事件以降ですが、われわれ台湾ははるか昔から人民解放軍と向き合ってきました。彼らの考え方はよくわかります。

――現在は武力による脅しの段階として、今後の中国が軍事行動をエスカレートさせた場合はどうなりますか?

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林 次に起こり得る段階は、離島などでの小規模な軍事衝突です。たとえば、南シナ海で台湾の実効支配下にある東沙諸島(ほか、より南にある太平島、中国大陸近海にある金門島・馬祖島など)を占拠する。

 いちど占拠された場合、軍事的に見て奪還は簡単ではありません。台湾は2022年9月に最新鋭艦の国産ドック型揚陸艦「玉山」を就役させましたが、さすがに離島を取り戻す作戦は難しいでしょう。

1949年の古寧頭戦役では、人民解放軍は200艘あまりの漁船に乗り人海戦術で金門島に攻めてきたものの撃退された。ただ、現代の彼らは当時よりずっと強い。古寧頭戦史館で筆者撮影。

――金門島は1950年代は防衛の最前線でしたが、中国大陸と近すぎることもあり、現在は軍事的には防衛がほぼ不可能だという話もよく聞きますね。さておき、次の段階は?

 海上封鎖です。天然ガスをはじめとした各種のエネルギー資源や食料が国内に入ってこなくなれば、台湾経済は大きな打撃を受ける。半導体産業などへの影響もはかりしれません。これは実際におこなわれると、台湾に対してかなり大きな脅威になります。がんじがらめにしたうえで、中国は台湾側に(降伏勧告としての)「話し合い」をうながすわけです。