2人とも相手には見えないように将棋盤の下で、この仕草を続ける。子どもがじゃんけんで何を出すか決めようとしているみたいだ。
2日目からの局面は盤上に現れることもなく、銀で取ったらどうなるのかだけを検討していく。
羽生が敵の歩頭に金が出る鬼手を指せば、藤井が角切りの返し技を放つ。「そうかー。まずいですね」と羽生は楽しそうにつぶやく。
感想戦開始から50分がすぎ、盤上が動かなくなる。両者とも沈黙し、もうそろそろ感想戦がお開きかなと思ったところで、羽生が「あっすいません、あと1こだけ」。
感想戦だけで一つの作品ができそうだ
おいおいまだ続けるのか、しかも1つだけと言いながら、別の変化も調べ始める。羽生が金をエサに寄せ合うというすごい手を示せば、藤井は角を切り銀捨ての王手をかける。
「あーなるほど、詰みなんですか。なるほど」
ええと、捨て駒が3回もある詰みなんですが、そうですか2人はすぐに分かるんですか。もう感想戦だけで一つの作品ができそうだ。結局感想戦は1時間を超えても終わらなかった。まったくこの2人は……。
大盤解説会の解説を務めた谷川浩司十七世名人も、感想戦の様子を控室のモニターで見守っていた。
谷川に話をうかがうと、「もう趣味の世界に入っていますよね(笑)。2人とも将棋が好きですよね。感想戦なのにまったく妥協しないですし」と、苦笑しながら答えた。
羽生と同世代の森内は、「シビアな将棋でしたね。選択肢がすくなく細い迷路にはまりやすく。初見で間違えずに選ぶのは大変ですよ」と藤井の苦悩ぶりをおもんぱかった。
「うさぎのネクタイはファンにたくさんいただくので…」
感想戦終了後に羽生にも話を聞くことができた。「銀捨てではなく桂を打ったらどうしましたか?」と質問すると、「どこに桂を打ってきても、馬を寄って攻めますが、馬を切らなければいけないので、まだまだ難しいと思っていました」。
和服やネクタイについては「和服はデザインも色もすべて妻にまかせています。うさぎのネクタイはファンにたくさんいただくので、何本あるかわかりません(笑)」と対局の後なのに疲れを感じさせない笑顔を見せた。間近で見るとやはり羽生は若い。
以前、「25歳の羽生が戻ってきた」と書き、ちょっとおおげさだったかなと反省したが、間違いではなかったようだ。
うさぎ柄のネクタイをしめ、緑がかった青色の鮮やかな羽織を着こなし、2局しか前例のないマニアックな陣形に組み、藤井のお株を奪う桂使いで敵陣を破壊し、2時間近くも持ち時間を残して完勝し、グラビアアイドルのような撮影もこなす。これで52歳であるわけが……。
【 #王将戦 】羽生九段 王将戦タイ勝から一夜…「寝起き姿」披露だピョン 侍ジャパンに「頑張ってほしい」― スポニチ Sponichi Annex 芸能 https://t.co/l8WzenIRJ4
— スポニチ王将戦【公式】 (@sponichi_ohsho) February 12, 2023