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心が萎えた雨宮氏が「自分はふさわしくないだろう」

「次の総裁は政策転換が求められる。自分はふさわしくないだろう」

 先輩たちの怒りや、大規模緩和への強い批判が雨宮氏の心を次第に萎えさせたのか、10月になった頃にはこう漏らすようになった。

 雨宮氏を後押しする財務省も困惑していた。山口広秀元副総裁を新たな候補として推す有力者も現れた。財務省の元幹部は「雨宮氏の本音が分からない。官邸は別の候補も探っている」と見ていた。

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 秋が深まる頃には、トロイカ体制で岸田首相を支える自民党の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長もそれぞれ候補を考え始めるようになる。茂木氏は森信親元金融庁長官を推薦しようとした。

トップとして10年間君臨した黒田東彦総裁

 だが森氏は長官だったとき、スルガ銀行を「特色あるビジネスモデルだ」と持ち上げたことがある。しかし同行はアパートローンの投資詐欺で多くの被害者を出していたことが発覚。森氏の評判は地に墜ちた。ただ、総裁就任については「もともと無理筋だし、森氏もやる気はなかった」とされる。

「氷見野氏は副総裁としてはうってつけ」「内田氏はクールな性格で行内に仲間が少ない」

 学者ではコロンビア大教授や副財務官を経験した伊藤隆敏氏の名前が挙がっていた。伊藤氏は国際金融人脈に定評があり、実際に日銀副総裁の候補になったこともある。だが麻生氏は学者の総裁起用には反対だった。「企業経営を経験したおれから見れば、日銀のような大組織を学者に任せることはできない」というのが持論である。

 財務省は「雨宮氏が総裁になるなら意思疎通に不安がないから副総裁は出す必要がない」(幹部)という立場だった。しかし、総裁に雨宮氏以外が選ばれるなら話が違う。元金融庁長官の氷見野良三氏が副総裁に選ばれたのは、麻生氏と財務省の「合作」だろう。5カ国語を使いこなし、幅広い教養を持つ氷見野氏は20年余り前から、国際的な金融監督機関のトップを狙う人材として育てられてきた。温厚な人柄は金融界からも信頼されている。「次の次」を狙うのは本流の財務次官経験者だが、「氷見野氏は副総裁としてはうってつけの人材」(長官経験者)とみられていた。

次期副総裁の氷見野良三氏 ©時事通信社

 もう1人の副総裁に選ばれた日銀の内田眞一理事は金融政策の中枢を歩んだ。雨宮氏に続く「日銀のプリンス」であり、語学力や海外人脈は申し分ない。だが元日銀理事のひとりは「あまりにクールな性格だから行内に仲間が少ない。人事や組織運営ができるのか」と疑問を投げかける。

次期副総裁の内田眞一氏 ©共同通信社

 植田氏、氷見野氏、内田氏は「超」が付くエリートだが、危機管理を迫られた時の経験や胆力には不安が付きまとう。