——スイッチ。
後藤 本当は舞台も上がりたくない。袖にいる時も上がりたくないと思ってるんですけど、でも、出るとスイッチが入っちゃって、アドレナリンがドワーッと出て、終わった後は楽しくてしょうがなくなるんです。出るまでは本当に嫌で、胃が痛くなるのに。その繰り返しでした。だから、海に飛び込むのも絶対嫌なんですけど、飛び込んでしまえば、そこから面白いことを考えてしまう。
——それ芸人さんですね。
後藤 じゃあ、普通か(笑)。本当に嫌でしたけど。毎回そんなに緊張してる芸人いないってよく言われました。「初めてじゃないでしょ。何回舞台踏んでるの?」「毎回駄目なんです、駄目なんです」と言って、でも呼び込みがあって、出ちゃうと、別人になる。二重人格なのかもしれない(笑)。
——そのスイッチは、誰かが笑ってくれると入るものですか?
後藤 そうですね。ステージに立てばお客さんは私しか見てないので。その快感を一度味わってしまったから。そこだけは楽しかったですね。
シャツに「モナリザ」のネクタイ…中性的な衣装のワケ
——後藤さんはいつもステージでシャツにネクタイでしたが、あれには何か意味があったのでしょうか。
後藤 あれは、漫才イコールネクタイという勝手なイメージを持っていて、漫談もきっとそうだろうと。私の知るお笑い知識の最大限の表現でした。
——そういうことだったんですね(笑)。お話を聞いていると、女性ファンからのやっかみを逃れるためのファッションだったのかなと思いました。
後藤 いや(笑)。ライブに出始めた頃は高校生で、お金がなくて、ギャラで200円もらって喜んでいた時代だった。それをいっぱい貯めて買った洋服があれでした。
——自分で稼いだお金で買った衣装。
後藤 そうなんです。あれは。
——モナリザのネクタイしてましたよね。印象的でした。
後藤 ネクタイは、お父さんがアメリカ出張に行った帰りに、ギャグで買ってきたんです(笑)。その後、ちゃんといいやつが買えるようになって、シャツはいっぱい変わったんですけど、モナリザのネクタイはあの1本だけです。常にクリーニングに出して、なんだかんだ8年くらい使っていました。
——見た目もですが、後藤さんのネタもどこかジェンダーレスな感じがありました。
後藤 当時、恋愛とか一切してなかったから、そういうのが分からなかったんじゃないですか。男だか女だかも全然分かってない。自分が感じたものをやっていたのかな。
——対象をいじるけど、自分のことも落とす、そのバランス感覚も現代っぽかったです。
後藤 それをやらないと嫌われちゃうから(笑)。よく私、つんく♂さんとか反町(隆史)さんの本名をバンバン言って落としてましたけど、絶対今じゃNGですよね……。