今、女性芸人の世界が揺れている。女性芸人といえば、当たり前のように「ブス」「デブ」「非モテ」をいじられ、そこで強烈なインパクトを残すことが成功への足がかりとされてきた。
しかし、持って生まれた容姿や未婚か既婚かどうかの社会属性などを「笑う」ことに対して、今世間は「NO」という意思表示をし始めている。「個人としての感覚」と「テレビが求めるもの」、そして「社会の流れ」。三つの評価軸の中に揉まれながら、女性芸人たちは新たな「面白さ」を探し始めている。
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双子で女性で、漫才師。黒いスーツにピンヒールで舞台に立ち、新約聖書、チーマーの後輩、首輪のついたみょうが、水瓶の女神様などを登場人物とする不可思議な日常をしゃべくりで紡いでいくDr.ハインリッヒ。2020年を最後にM-1参戦を終えるも、来月のなんばグランド花月の単独公演チケットは即完売、今最も勢いのあるコンビとなった。
双子あるあるも女あるあるもしない孤高の漫才師は、女芸人が抱える“矛盾”にどう向き合ってきたのだろうか。テレビが彼女たちに突きつけた「現実」を聞いた。(2回中の第1回/2回目を読む)
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「女芸人」という言葉に違和感があるのに、取材を受けた理由
――取材をお引き受けくださって本当にありがとうございます。Dr.ハインリッヒさんはアーティストスポークン(音声配信サービス)でも「女芸人」と呼ばれることに違和感を抱いているとお話しされていて、もしかしたら断られてしまうかな……と。
幸 実は、鳥居みゆきさんの回を読んだことがあったんです。ここは我々が普段自分のラジオとかトークライブで言ってるような話をしていい場所だと思いました。フェミニズムに対する理解があって、意図を汲み取れる方々から来たオファーだと思ったので。
――嬉しいです。正直言いますと「そういうお話は……」と断られる方もいらっしゃるので。
幸 今までは有料の音声コンテンツでこっそりファンに向かって発信してるだけやったんですけど、これが文春オンラインで出ると、我々のことを知らない人にも読んでもらえる。「こういうことを考えてますよ」は、前々から発信していきたいなとは思っていました。
たしかに……こういうことを発言すると変なキャラ付けされるというのも分かります。テレビの中でそのキャラになるのは嫌ですもんね。ただ、語るべき場所で語る言葉が重要だなと思っていて。場所を選べるなら選びたい。
彩 そうです。
――テレビが出してくるフェミニストキャラって、だいぶステレオタイプですもんね。
幸 テレビのみなさんの中にあるフェミニスト像がすごく古いものなんですよね。今のフェミニズムを何も知らないくせに、「こいつはフェミだろう」みたいな言い方をしてくる。
そんなところで世間へ説明する役なんてしたくないじゃないですか。だからややこしい話なんやけども。理解してくれてはる人の前から、まずは始めていかなあかん。
彩 そうです。言い渡す世界は変わらないのでね、やっぱり。
――テレビがいまだに大きな存在感を持っている中、テレビに対してストレートに不満を語ることができる立場の女性芸人の方はなかなかいないのだろう、とも感じています。
幸 一見ジェンダーレスを標榜しながら、結局女性は愛嬌であるとか、そういうものを利用している人もいるんだと思うんです。だからこそ言いにくいんでしょうね。もちろんそういう生き方を選ぶのなら、それでいいんですけど。
まあ、いったら、テレビに“言い渡す役”をやるのは貧乏くじなんですよね。面倒くさいのはわかります。