あまり日の当たらない旧作邦画を積極的にDVD化してきたレーベル「DIG」が、昨年末に休止となった。
そこで今回は、同レーベルから出ている一本『七人の刑事 終着駅の女』を取り上げる。当時人気だったテレビドラマの映画化作品である。
物語は、ある夜の上野駅から始まる。ホームで身元不明の女性の刺殺体が見つかり、警視庁の「七人の刑事」たちが捜査を開始した――。
前半は、クセの強い脇の人物たちが印象深い。
タダ飯にありつくためにガセ情報を持ってくるホームレス(日野道夫)。遺体は失踪した妻ではないかと思って押しかけるも、写真を見せられた途端に必死な形相が冷淡に豹変する白井(稲垣隆史)。同じく、遺体を家出した娘ではと心配して田舎から出てきた老婆(北林谷栄)。自身を「正直ショウちゃん」と自称する置き引き(草薙幸二郎)。そして、七人と共に捜査するも一人だけ所在なげな所轄刑事(大滝秀治)――。
日野を除くと皆、劇団民藝の名優たちだ。そんな民藝ならではの庶民的な泥臭さが、高度経済成長期の上野の雑踏とピッタリと合い、この空間を生々しく彩っている。
そして、若杉光夫監督によるドキュメントタッチの演出も冴え渡り、その生々しさは一段と強まることになった。
最も驚くのは、BGMを全く使っていないことだ。冒頭のキャスティングロールからして、主題曲は一切流れない。遺体安置場の暗闇に、足音が冷たく響き渡るのみだ。
それは本編に入っても変わらない。BGMが完全に排されたことで、さまざまな効果音が引き立つ。たとえば、自動車のエンジン音やクラクション、電車の警笛が上野駅周辺や路地裏の喧騒をリアルに浮かび上がらせる。
そして、なんといっても見事なのは、足音の使い方だ。「目は口程に物を言う」というが、本作では足音が何より雄弁に語る。刑事たちの忙しない靴音の数々は、彼らの焦燥感や必死さを伝えていた。さらに、サンダル、下駄、パンプス――人物ごとに異なる履物の奏でる、それぞれの足音は、彼らの性格の違いをも表現しているかのようである。
劇伴の名手・渡辺宙明が「音楽」でなく「音響」とクレジットされている点にも、音楽を使わずに効果音で勝負せんとする、強いこだわりがうかがえる。あまりに苦いラストは、セリフすら消し、警笛音で締めくくられていた。
旧作邦画の市場は著しく小さい。そうした中で継続的にDVDを出し続ける苦労は、並大抵ではなかっただろう。
DIGの皆さまに、改めて感謝と敬意を示したい。