そもそも、原発を動かすには核燃料を使うが、ただ天然ウランを入れただけでは用をなさない。そこに含まれる「ウラン235」の濃度を高めた濃縮ウランが必要で、最大の供給国が米国だった。その米国務省が、石油危機後、1974年11月に作った対日政策文書がある。
「日本は、石油輸入への依存を減らすため、原子力発電を推進する姿勢を取っている」
「ある程度、日本が濃縮ウランの供給源を多様化するのは、避けられない。しかし、今後も、米国が主要な供給源であり続け、その役割を強化することが、わが国の利益に資する。直接の経済的利益に加え、政治的関係を深め、産油国からの圧力に耐えさせ、国際エネルギー問題での米国支持も促せる」
日本が原発を作れば作るほど、濃縮ウランがいる。その大半を、米国に依存している。つまり、ウラン欲しさに言いなりになるしかない、という意味だ。
また、わが国の原発推進を歓迎したのは、世界のウラン鉱山を押さえるウラン・メジャーも同じだった。
無公害、無尽蔵でだれも手を付けていないエネルギー。それは…
これは英国、フランス、南アフリカなどの巨大企業で、天然ウランを採掘する彼らなしに原発は動かない。当然、電力会社も上客だが、じつは、格好のカモにされていたのが発覚した。1970年代、ウラン・メジャーは、秘密カルテルを結成し、販売市場を分割、何と日本に他より高値で売りつけていた。
こうした裏の構図を、田中も強烈に意識したらしい。
「では原子力はどうか。これまたチェルノブイリを見れば分かる通り、いったん事故を起こしたら、その惨害は甚大だし、核燃料はみなアメリカのメジャーカンパニーが握っている。ウラニウム鉱を採掘しようと、新しい会社を興そうとしても、参入できん。今世界で一番ウラン鉱石があるのは、アフリカ南部のナミビアです。あそこにはそのほかモリブデンなどのレアメタル(希少金属)が豊富に埋蔵されている。その埋蔵量は世界一です。もともと南ア問題というのはそこからきている。アメリカはこれを自分らのものとして、コントロールしようとしている。これを握れば世界の支配も簡単でしょうな」(「田中清玄自伝」)
つまり、欧米の国際石油資本、それがウラン・メジャーに替わっただけで、生殺与奪を握られるのは同じだ。これでは、とてもエネルギーの自立どころではない。石油権益で散々メジャーとやり合っただけに、それが何を意味するか、見抜けたのだろう。
そして、田中は、強大なメジャーも手をつけていない、有望なエネルギーが存在するのに気づいた。石油やウランと違い、こればかりは彼らも独占したり、分割するような真似はできない。しかも無公害、無尽蔵ではないか。太陽エネルギーである。