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 今回の調査では、死亡した男性が女子医大で腎臓移植を受けていたことが明らかにされた。移植経験のある患者は、免疫抑制剤の服用を続けなければならないので、健常者より感染症などのリスクは高い。加えて男性には、長期の人工透析とステロイドの服用歴があったことから、臓器などが脆弱だった可能性が指摘されている。このようにリスクが高い患者だからこそ、女子医大は慎重に対応する必要があったはずだが、最悪の結果となってしまった。

腎臓移植の手術件数では国内トップクラスの女子医大(sincere No.4より)

「胸水が少ない=リスクが高い」ということを認識していたのか

 医療安全担当の副院長によると、医療事故調査委員会は、「適応」、「手技」、「インフォームドコンセント」、「死後の検証」、以上4つの問題点を挙げたという。

 まず「適応」とは、症状に対して選択した治療方法の妥当性、という意味で使われている医療用語だ。副院長は次のように述べている。

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「胸水に対して、胸腔穿刺の適応がどうだったのか。(男性は)胸水の量があまり多くなかったので、他の手段があったのではないか。必ずしもベストな選択ではないかもしれない」(副院長の発言・要旨)

 実は、これまでにも、胸腔穿刺による死亡事故が一定頻度で起きていることから、「医療事故調査・支援センター」(*注3)が、2020年に「胸腔穿刺に係る死亡事例の分析」をまとめていた。そこには、“少量の胸水や限局した膿胸などを穿刺する場合には、致命的合併症を生じる危険性が高まる”と記されている。ただし、消化器外科医Aが、この分析を読んでいたのか、「胸水が少ない=リスクが高い」ということを認識していたのか、副院長の報告では明らかにされていない。

(*注3:死亡事故が発生した医療機関が調査を行い、医療事故調査・支援センターに報告することが、医療法で定められている)

消化器外科医Aは「インフォームドコンセント」がないまま、独断で胸腔穿刺を実施

 2番目に挙げられた「手技」という用語は、胸腔穿刺や手術などの手順や技術を意味する。

 調査の結果、左の胸腔を穿刺して入れたチューブが、右の胸腔まで達して静脈を損傷し、大量の出血を起こした、と推測されている(死因が明確ではない理由は、後述する4番目で指摘されている)。副院長は、このようなケースは「普通は考えられない」と述べ、腎臓移植を受けた体の脆弱性が関係していた可能性を示唆したものの、一方で、消化器外科医Aの手技にミスがあった可能性も専門家から指摘されたという。

胸腔ドレーン取扱い時の注意について(PMDA医療安全情報)

 3番目の「インフォームドコンセント」は、一定のリスクがある手術や処置の前に、「医療側が十分な説明をしたうえで、患者側が同意する」ことを意味する。患者の自己決定権を尊重する現代医療では、基本中の基本だ。過去に重大な医療事故を起こした女子医大病院にとっては、患者家族に対する丁寧で詳しい説明が求められている。だが、今回の調査によって、消化器外科医Aは「インフォームドコンセント」がないまま、独断で胸腔穿刺を実施していたことが明らかになった。その理由について、副院長は次のように説明したという。