トランスジェンダーそのものの立場が不安定
――最近では、LGBT理解増進法の採択について、さまざまな議論が繰り広げられていますよね。
西原 ありますね。シス女性(シスジェンダー女性の略)の方の立場で考えれば「男性が女性のトイレや公衆浴場に入ってくるのではないか」と不安になったり、恐怖心を覚えるのは理解できます。
でも、実際のところ女性トイレや公衆浴場をすべての「トランスジェンダー女性」が利用している、もしくはしたいと思っているかというと、そうではありません。この辺りの話はトランスジェンダーそのものの立場が不安定でもあり、非常にデリケートでセンシティブな話題なので、私たち当事者同士でもよく議論になるんです。
私の感覚では、身近にいるトランス女性の多くが、「女性用スペースを利用するのは、性別適合手術と戸籍変更が済んでから」という感覚や、「節度を持って常識的に」という認識を持っていると思うんです。まずはシス女性の立場を尊重したほうが良いですよね。
――実際には、すでに性別適合手術を受けているトランス女性の方が、女性用トイレなどの女性用スペースを利用しているケースが多いだろうと感じる、ということですね。
西原 やはり心と体の性別が違うことで、他人の目を気にして生きてきた方が多い分、ある程度の条件をクリアしていない状態で、そんなわざわざ目立つようなことはしないですし、したくないと思います。
節度を持って生活している人の声はあまり取り上げられない
――私の知人にトランス女性の方がいますが、確かにその方も「手術が済んでいても公衆浴場には絶対に入りたくない」と言ってました。目を向けるべきは「トランス女性を騙って女性用スペースに侵入しようとする男性の犯罪者」であって、「トランス女性に女性用スペースを利用させないこと」ではない、と思います。
西原 今、だんだん性的マイノリティと言われる人々への関心や話題が大きくなってきているからこそ、それを利用して犯罪を犯そうとする人もいると思いますし、当事者の中にも世間の「理解しましょう」という空気をうまく利用してというか、羽目を外しすぎる人ももちろんゼロではないと思います。
ただ、さっきもお話ししたように多くの場合「ちゃんとしよう」と節度を持って生活している人の声はあまり取り上げられないし、一部の目立つ部分だけがメディアやネットで切り取られてしまうので、そういうところに対して起こる反発なのかな、と思いながら昨今の流れを見ています。