ダブルマイノリティで悩んでいる人がたくさんいる
――これからもっと、社会や企業などが「こう変わればいいな」と思われることなど、西原さんのご視点で何かありますか?
西原 多様な事情や価値観を認め合って、ひとつの会社を作り上げていくことです。あとは平等に接して欲しいということですね。実際に知ってもらって触れ合ってもらって、驚かずに他の社員と同じようにというか、私たちの存在が否定されずに、立場の違う人同士でも苦楽を共に分かち合える関係になれたら素敵だと思います。
あと、ここからは私個人の視点の話になりますが、トランスジェンダーの方にも知っていてほしいのは、自分の特性を知ることで、生きやすい場所を見つけることが可能だということです。もちろんジェンダーの境界が関係ない話でもあるのですが……。
私が知る限り、トランスジェンダーの方にはバックグラウンドが他の方と違う人も多い、と感じていて。明確なデータが存在するわけではないので伝えるのが難しい部分でもありますが、支援をする中で関わる方々には、発達障害などを併発している方も多く見受けられます。いわゆる「ダブルマイノリティ」と呼ぶそうなのですが。
――貧困問題の取材をしていても、ダブルマイノリティの方は非常に多く、おまけに支援に繋がることができていないケースがほとんどなので、社会課題のひとつであると感じています。
西原 自覚があるなしに関わらず、その状態のまま「うまく社会に適応できない」と悩む方は想像以上にたくさんいらっしゃるんですよね。自分ひとりで改善を目指しても、なかなか思うようにならなくて余計に苦しくなってしまったり。
そういう方のためにも社会の仕組みとして「あればいいな」と感じるのは、例えばトランスジェンダーや発達障害の問題について、悩みを抱える当事者の方が頼ることのできる行政の就労支援団体や、まさに支援を必要としているダブルマイノリティの方などが働くために必要な基礎知識を学び、成長して、ある程度の収益を確保できるような場所です。
社会全体でトランスジェンダーの就労環境が改善されれば
――行政を含めた社会全体の理解が深まっていったり、関わる人が増えれば増えるほど、一気に課題解決に向けて動き始める、ということですね。
西原 「スタジオさつきぽん」もそうした願いを込めて立ち上げたものなので、困っている当事者の方が1人でも多く支援に繋がって、特性に合わせてパフォーマンスをあげられる場所ができればいいなと思っています。
私も芸事の世界も含めていろんな世界を見てきましたが、どの業界でもトランスジェンダーの仲間たちの就労環境が圧倒的に悪かったので、社会全体での待遇改善にもつながってほしいですね。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
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