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「コートでプレーするのは選手たち。自分で判断する力を持たないといけないのに、私の言葉が選手の成長を妨げていたんだ、と気づかされた。それならばあえてあれこれ言わないほうがいいな、と」

 ある大会では“事件”も起きた。

「試合が終わって1時間半が過ぎても、インタビューから選手が戻って来ない。さすがに明日決勝だからそろそろ、と様子を見に行ったら、選手たちが私を置いて先に帰っていました(笑)」

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最期の春高行きを賭けた東京予選だった

 今回、最後の春高を逃した東京予選。小川はこう考えていた。

「コートに立つ7人中3人が1年生。レベルの高い東京予選を勝ち抜く経験を積み成長できれば日本一を狙える。優勝するならばこのメンバーだ」

 そして、敗れた。小川だけでなく、OGたちも「先生らしい」と言う。

 “勝つ”より“成長”に力点を置く。それで何度も負けてきた。

「その子に合う正解はいくつもあっていいはずですよね」

 今回、小川が「この人に話を聞いてみては」と1人だけ名前を挙げた選手がいる。

 高橋昌美。Vリーグでもプレーしたが、全国的には無名の選手だ。昨年まで嘉悦大バレーボール部監督。小川が嬉しそうに語る。

「高校時代、まともにしゃべれなかった彼女が今、監督をやっている。いいチームを作っているんですよ」

 その高橋が証言する。

「歴史にたとえると、小川先生は徳川家康みたいな大将軍。でもどれだけ長く続いても終わる時が来る。受け継ぐのはそのマインドを持った弟子たちです。小川先生がいないから終わり、ではなく、プラスしてもっと可能性を広げるのが、若い自分たちの役目だと思うんです」

 出産を経て37歳まで現役を続け、今は早大で学ぶ荒木。絶対的エースとして活躍し、引退後の今なお、全国のバレー少女の憧れとなっている木村。子どもたちへの普及活動を続ける大山。代表選手だけでなく、Vリーグの選手、さらには指導者として多くのOGがバレーボール界に携わる。

「選手がこの場所にいて、自分の個性がのびやかに出せる。指導者が思う正解に当てはまらないからダメじゃなく、その子に合う正解はいくつもあっていいはずですよね」(小川)

正解はいくつもあっていい。名将のバトンは、次世代へ

 自分で正解を見つけるべく、考える力を育むこと。“早すぎた名将”のバトンは、次世代に渡された。

撮影 杉山拓也
 

◆現在配信中の「週刊文春 電子版」では、下北沢成徳OGの荒木絵里香さん、大山加奈さん、木村沙織さんが小川良樹監督の勇退に寄せた勇退コメントや、4人での記念ショットの数々を限定公開しています。

小川良樹-Yoshiki Ogawa- 1955年10月29日、愛知県生まれ。早稲田大学在学中に成徳学園(現・下北沢成徳)のコーチに、26歳で監督に就任する。02年には「高校三冠」を達成し、荒木絵里香、大山加奈、木村沙織ら日本代表選手を多く輩出。今年度をもって、42年間の監督生活に幕を下ろす

この記事の詳細は「週刊文春電子版」でお読みいただけます
日本バレーを作った男|下北沢成徳高校バレーボール部監督 小川良樹

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