「逃げるなよ。分かってるやろな。ヤクザを大勢呼ぶぞ」
2012年9月から10月にかけて虐待されていた男性の事件は、同様に苗字を取って「川並事件」と呼ばれる。当時は次男と次女の他に同居していた2名も加わって、小林被告の命令で男性を暴行し、全治4カ月のケガを負わせた。
〈同居していたうちの1名は母の交際相手だった。交際相手は母の命令で被害者を木刀で殴ったり、拳骨で殴ったり、太ももを蹴ったり、エアガンで撃ったりしていた。倒れた被害者の上半身にダンベルを落としていたこともあった。『何で彼氏ばかりにやらせんねん。お前らもやれ』と命令され、指名されると被害者を殴ったり、タイマンを張ったりしていた。母が暴力を振るうこともあり、被害者が泣いても面白がってやめなかった。被害者には『逃げるなよ。分かってるやろな。ヤクザを大勢呼ぶぞ。逃げてもすぐに見つけるからな』と言って脅していた。被害者が逃げた後、自分も次女と一緒に夜中に逃げた〉(次男の供述調書より)
この事件は警察沙汰になったが、全員が小林被告の関与をかばって立件されなかった。次男は家裁で審判を受け、少年院に送られた。
最後の「丸山事件」の被害者とは2017年3月に出会い系アプリで知り合い、まもなく同居を始めた。この事件では当時16歳だったXも犯行に加わっていたとされている。同年6月から10月にかけて、被害者は暴行と食事制限によって衰弱し、最後は救急搬送されたが、一時心肺停止状態に陥り、回復の見込みがない脳障害が残った。
“稀代の悪女”に悔恨の涙は見られず
この延長線上に岡田達也さんに対する傷害致死事件があり、「私は暴行も加えていない。食事制限もしていない。岡田さんが亡くなったことは関係ありません」と主張するのは、あまりにも無理があるだろう。小林被告からは道徳や倫理観、恥の概念、罪の意識といったものがまるで感じられない。
こうした小林被告の姿勢は、判決公判でも厳しく非難された。
「被害者を精神的に支配し、憂さ晴らしとして暴行を重ね、食事制限は被告人が主導したと認められる。人を人として扱わない卑劣極まりない犯行であり、被害者の苦痛や飢餓感、無念さは計り知れない。ストレスのはけ口として各被害者を弄び、自己の歪んだ欲望を満たそうとした。犯情は際立って悪質であり、同種事案の中でも格段に重く処罰されなければならない」(畑山裁判長)
小林被告は判決文が読み上げられる間、微動だにせずに聞いていたが、「この判決に不服がある場合は控訴の申し立てをすることができます……」という説明に入った途端、「ウン、ウン」と大きく何度もうなずき、最後に振り返って傍聴席を一瞥したが、“稀代の悪女”に悔恨の涙は見られず、片手で髪をいじりながら法廷を去って行った。