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飲食店では産地表示の義務はない

 2004年以降、日本は中国産のブロイラー(生肉)を輸入していない。

「鳥インフルエンザの発生を受けて、中国からの鶏肉の輸入は禁じられています。ただし、加熱処理をした鶏肉に関してはこの限りではありません」(農水省消費・安全局動物衛生課)

 そこで中国産の「鶏肉調製品」の輸入量を調べてみると、タイ産と並んで突出しており、2016年度には約17万トンが輸入されている。全体の輸入量の約38%を占めている。鶏肉調整品とは、から揚げやチキンナゲット、焼鳥などのことだ。

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 鶏肉調製品の加工・流通には、生産から出荷まで幾次もの工程があり、当の輸入業者ですらすべてを正確に把握できていないことがある。しかも、輸入される鶏肉調製品の大半は、外食産業で消費されている。飲食店の店頭では産地表示の義務はないので、消費者の胃袋には知らぬ間に中国産の鶏が収まっている。見分けるコツがあるとすれば、“値段”ぐらいだろう(高いからといって、中国産が使われていないとは言い切れないが)。

「病死した鶏を出荷したら違法」の文字が書かれた養鶏場。わざわざ注意を促すということは……(中国河南省にて) ©文藝春秋

「これは私たちが食べる用に作ったもの」

 中国には、こんな笑えない“冗談”がある。曰く「カネのない庶民は市場で中国産の食品を買う。少しお金を持っている人は外資系スーパーで食品を買う。では、大富豪はどうするのか? 彼らは、自分専用の菜園で自家用の野菜を作らせる」。根底にあるのは、口に入れるものに関して他人を信頼できないという根強い不信感だ。

 山東省の山奥にあった養鶏場を訪れた際の出来事を思い出す。

 遠くからやってきた我々に奥さんが簡単なラーメンを作ってくれたが、これまで取材現場で見た風景が脳裏にチラついて箸が進まない。不安そうな表情からなにかを感じ取ったのだろうか。彼女は、具のニラや鶏肉、卵について「これは、私たちが食べる用に作ったものだから安全だよ」と言い、ニヤッと笑ってみせた。

 ある全国紙の中国特派員は、「中国の農家は、出荷用と自家用をわけて生産している。中国全土どこでも普遍的な現象だと思いますよ」と語る。

 生産している当人や中国で暮らしている人々ですら口にしようとしない成長ホルモン剤漬けの鶏肉――。私たち消費者が取れる自衛策は少ないが、まずはこうした実態を「知っておくこと」が重要ではないだろうか。安い食べ物には理由があるのだ。

怖い中国食品、不気味なアメリカ食品 (講談社文庫)

奥野 修司(著)

講談社
2017年9月13日 発売

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