生涯で2人に1人がかかると言われる「がん」。でも、知っているようで、知らないことも多いのではないでしょうか。そこでジャーナリストの鳥集徹さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。参考文献として信頼できるサイトのリンクも紹介しています。いざというときに備えて、知識を蓄えておきましょう。

A12 病気を抑えることができている場合を「寛解」と言います。

 これらの言葉の違いを理解するには、がん治療の特徴について理解する必要があると思います。

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 たとえば、「治癒切除」という言葉があります。これは、がんの手術を行って、肉眼で見た範囲にも組織の切断面にもがん細胞が残っていないと確認できたときに使われる言葉です。「がんを残さず取り去れた」という意味で「治癒」、すなわち「治療が成功して治すことができた」という言葉が使われるわけです。

 しかし、治癒切除としても、「完治」、つまり「完全に治った」とは言い切れません。なぜなら、体のどこかに微小ながんが残っていて、しばらく後に大きくなって発見される(再発する)可能性もゼロではないからです。

 そのため、がんでは術後5年間再発しなければ、完治しただろうと見なすことになっています(乳がんの場合は、5年以上経っても再発することがあるので、10年が完治の目安とされています)。これが、治療成績を示すのに「5年生存率」が使われる理由です。

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 実際には、「完治」と「治癒」にあまり意味の違いはないかもしれません。治療によって病気を治せた割合を「治癒率」という言葉で表す場合もあるからです。ですが、医療現場では上記のように微妙に区別されて使われているように思います。

血液のがん場合、よく使われる「寛解」とは?

 では、完治、治癒より聞きなれない言葉である「寛解(かんかい)」は、どういう意味でしょうか。

 がん治療で、寛解という言葉がよく使われるのは、血液のがんの場合です。たとえば、急性骨髄性白血病では最初に、抗がん剤によって白血病細胞を叩く「寛解導入療法」が行われます。そして、骨髄中に存在する白血病細胞が5%以下になった場合を「寛解」と見なし、治療の効果があったと判定します。

 しかし、これだけでは白血病細胞が再び増えるかもしれないので、さらに「地固め療法」と呼ばれる追加の抗がん剤治療などを行います。これによって血液検査をしても白血病細胞が検出できなくなり、白血病が再び暴れ出す(再燃する)ことがない状態になった場合を「完全寛解」と呼びます。

 寛解という表現は、血液のがんだけでなく、固形がん(大腸がん、乳がんなど腫瘍をつくる一般的ながん)でも使うことがあります。たとえば、抗がん剤によって腫瘍が見つからないほど縮小し、再発しない状態が続いているような場合です。

 このように、寛解という言葉には「完全に治った」とは言い切れないけれど、「病気を抑えることができている」というニュアンスがあります。完治、治癒、寛解の意味の違い、おわかりいただけたでしょうか。

【参考】「急性骨髄性白血病」(国立がん研究センターがん情報サービス)