この瞬間、僕の中のエボラに対する不安や恐怖心が跡形もなく消えていった。
「僕が向き合うべきは、テレビやニュースの映像でもなければ、エボラという病気でもなく、一人の少年だ。ここカイラフンで僕がやるべきことは、目の前の患者さん、こどもたち一人ひとりと向き合うことなのだ」とようやく悟った。
エボラへの恐怖が消え失せた時
トーマスの身体を頭の先からつま先までできるだけ丁寧に洗った。マッシモが止めてくれるのを待っていた自分を恥ずかしく思う気持ちもあったが、それ以上に、トーマスが少しでも気持ちよく元気になってくれるようにという想いで、精いっぱい、丁寧に優しく身体を洗っていった。
僕の脳裏には、以前勤めていたこども病院で患者さんや家族に誠実に向き合うスタッフの真摯な姿が浮かんでいた。無理を言って南スーダンに行かせてもらったうえに、帰国後には心身喪失のような状態になり、突然退職することとなって多くのスタッフに迷惑をかけてしまったことを、ずっと後ろめたく感じていた。南スーダンでは何もできなかった。けれど、そのぶんも、応援してくれていたこども病院のスタッフたちに対して、恥ずかしくないよう、ここシエラレオネでエボラに苦しむこどもたちのために精いっぱい取り組まねば、という思いを新たにした。
トーマスの身体を洗い終え、彼を再びテントの中のベッドまで連れていって寝かせた。彼は目を閉じたままで何も言わなかったが、その表情はとても穏やかに見えた。
この時を境にして、僕のエボラに対する恐怖心は消え失せ、二度と姿を現すことも、僕を煩わすこともなかった。
僕が向き合うべきは、世間を騒がしているエボラという病気でもウイルスでもなく、エボラと勇敢に戦うこどもたち一人ひとりなのだから。
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