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 イサトゥを抱き上げて椅子に座らせると、シンディは僕にイサトゥの横に座るように言った。言われた通り、イサトゥの手を握ったまま彼女の横に座る。シンディはイサトゥの目の前に座り、その横に現地の心理療法士が座るかたちになった。

 シンディは自己紹介をした。「イサトゥやたくさんのお友達とお話がしたくて、遠い国からここに来ましたよ」と。通訳を介してシンディの言葉が伝えられるが、イサトゥの表情はこわばったままただった。

 小児科医として救急の現場で働いてきて、僕自身、事故で亡くなったこどものことを親に伝える場面には何度となく立ち会ってきたが、親の死をこどもに伝えるのはこれが初めてだった。こどもに対してそのきょうだいが死んだことを伝える役割も、多くの場合、親が担うことが多く、こどもに家族の死を伝えることには慣れていなかった。

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「お母さんはいつもイサトゥの心の中にいるよ」

 僕は、シンディがどんなかたちでイサトゥに母親の死を伝えるのだろうかと固唾をのんで待っていたが、彼女は、自己紹介を終えると、ためらうことなく本題に入った。

 イサトゥと一緒にここに来たお母さんは、イサトゥよりも病気が重くて、とても具合が悪かったと話し、具合が悪い間もイサトゥのことをずっと心配していたと伝えた。イサトゥはその話を黙って聞いていた。

 シンディはそのまま話を続けた。「お母さんはイサトゥに会うために元気になろうととても頑張ったけれども、とても怖いエボラという病気のために昨日の夜に死んでしまったんだよ」と。

 イサトゥは「死んでしまった」という言葉を聞いて一瞬表情を変えた。そして口を開くと言った。「お母さんはどこ?」と。シンディは、「お母さんは天国に行ってしまったんだよ」と答えた。少しの間があって、またイサトゥが口を開き、「お母さんは帰ってくる?」と聞いた。「とても寂しいことだけど、お母さんは天国に行ってしまって、もう帰ってこないんだよ」とシンディは話した。

 イサトゥの表情が大きく崩れることはなかった。しばらくの沈黙のあと、シンディは続けた。「お母さんは天国からいつもイサトゥのことを見ているよ、お母さんに会うことはできないけれど、お母さんはいつもイサトゥの心の中にいるよ」と。