海軍大将エーリヒ・ヨーハン・アルベルト・レーダーに、ナチス式敬礼を国民全体に広めた科学・教育・文化大臣ベルンハルト・ルスト。党付きの弁護士からポーランド総督まで昇りつめ現地のユダヤ人虐殺を引き起こしたハンス・ミヒャエル・フランクまで。
私たちの知る“結末”から逆算すれば眺めているだけで目がくらむような面々ですが、この時点ではまだゲームの主役を盛り立てるための、文字通り脇役に過ぎない登場人物達でした。
例えば。本作は1934年発売ですが、数年前までナチ党ナンバー2と呼ばれていたグレゴール・シュトラッサーはカード化されていません。当時すでに殉死していた功労者たちも何人もカード化されている中、政権獲得に貢献し突撃隊指導者も務めたエルンスト・レームもカード化されていない。
カード化されなかった歴史的経緯は様々ありますが、乱暴に言えば理由はたった一つしかありません。とある男に、彼らが公然と逆らったからです。
60枚のカードのうち10枚を占めるのはもちろん「あの人」
その男のパブリックイメージは党のプロパガンダによって徹底的に管理されていました。その片鱗は、ゲームを遊ぶことでも嫌と言うほど窺い知ることが出来ます。
ドイツ軍人らしい勇敢さを持っていて、どこか近寄りがたい鋭い眼光を放っている。ドイツのために真に迫る演説を繰り広げ、なんだかよく分からないが、国家を導く確信を持っているように見えた。そうかと思えばまたどこにでもいる一人のドイツ人らしい親しみがあり、子供や犬に優しく、自然を愛し、芸術を愛する男だと、党の宣伝では言われていた。
指導者カルテットと言ったところで、60枚のカードの内、実に10枚がこの男のカードなんです。彼をゲームの主役と言わず、一体何と呼べばいいのか。
もちろんゲームのパッケージにも男の写真が印刷されてますよ。この笑顔、皆さんだって見覚えあるはずでしょう? 1933年1月30日、パウル・フォン・ヒンデンブルクによってドイツ首相に指名されたオーストリア人の男、国民社会主義ドイツ労働者党党首アドルフ・ヒトラーという人物なのですが。