前回の記事では、中国における「拘束」リスクの具体的な姿を明らかにした。その上で、日本人の留学生や出張者・駐在員が「拘束」を避けるために注意すべき具体的なNG行動の実例を考えていくことにしよう。
なにより重要なのは、中国における政治的に「敏感」な問題がなにかを理解し、それに触れない言動を取ることだ。なにが「敏感」かを詳しく説明すると大変だが、非常にざっくり言えば「日本の新聞の国際欄に書かれた中国の話題は(パンダ以外は)すべて敏感」という理解で、おおむね間違いない。
「六四天安門」を検索するよりも危ないこと
【危険度C:政治的に「敏感」な問題に触れる】
・「敏感」な単語を微信(WeChat)で書く、話す。
・「敏感」な単語を検索する。
・「敏感」な地域に自発的に行く。
・「敏感」な問題を中国人と話す。
微信(WeChat)は中国人の誰もが使っているコミュニケーションアプリで、日本のLINE以上に生活に密着した存在だ。ただし、会話内容はすべてモニタリングされており、公安がその気になればいつでも調べられるようになっている。
だが、日本人同士で日本語でやりとりしている場合などにそのことを忘れて「今日は天安門事件の記念日ですね」「習近平さんが体調を崩したらしいです」などというメッセージを書き込む人がいる(以前、わざわざ微信で「安田さんの著書『八九六四』を読みました!」と挨拶してきた人物がいて、張っ倒したくなったことがある)。
もちろん、中国の検索サイト『百度』やSNS『微博』『小紅書』などで「六四天安門」「法輪功」などの単語を検索するのもダメである。ただし、実はこうした単語レベルのうっかりは、1度書き込んだくらいであれば何事も起きないか、せいぜい軽いお叱りを受ける程度で済む(余談ながら、中国系のプラットフォーム以外での日本語を使った言論活動は、顕名でテレビに出たり著書を出したりしていても、中国の世論に影響を与えていない限りは意外と大丈夫なことが多い)。
問題となるのは、「敏感」な話題の内容と主張の深さ、他の中国人に対する影響力、そして発信行為の常習性だ。たとえば習近平政権が注力している政策について批判すると、一気に剣呑な気配が増す。
具体的には、ゼロコロナ政策やその解除政策を批判する、白紙運動や香港デモを擁護する、歴史や政治の問題について日本や台湾の肩を持つ、中国の少数民族弾圧の問題点を指摘する、中国の不動産バブルの危機を懸念する……といった内容を、微信で中国語を使って長々と論じれば危険度は激しく上がるだろう(モーメンツや微博などに書き込むともっと危険だ)。