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 1997年7月から8月にかけての約1カ月間に、奥多摩町峰谷の牧場で7頭のヒツジがツキノワグマに捕食されるという事故が起こった。登山道脇の牧場ということもあり、血や肉の味を覚えてしまったクマに対し、地域住民や登山者等への人的危険性も考慮に入れ、奥多摩町では、都の許可をもらいその個体を駆除した。

ツキノワグマによる人的被害

 境集落に住むHさん(60歳)の自宅は、徒歩で約30分ほど登った山の中腹にある。ハンノキ尾根の末端にあたり、標高680メートルのところだ。荷物を運び上げるモノレールを架け、登り降りするHさんの姿は何度かテレビでも放映された。

 6月27日午後6時30分ごろ、Hさんが徒歩で山道を登っていた。日脚は延び、まだ付近は明るかった。まもなく自宅にたどり着くというとき、右上の土手の藪の中で獣のうなり声がした。Hさんが振り向くと、いきなり1頭のツキノワグマが飛び降りてきてHさんに襲いかかり、前足でHさんの顔面を殴った。Hさんはその場に倒れたが、クマは反転して元の藪の中に消えた。その後すぐ藪の中から子グマの鳴き声が聞こえたという。Hさんの顔面からは鮮血がほとばしり、やっとのことで自宅までたどり着いた。気丈にも自らが119番し、駆けつけた救急隊の手で奥多摩病院に運ばれた。Hさんは顔面左こめかみが3筋にわたり引き裂かれており、50数針も縫う1カ月の重傷を負った。幸い目までは達しておらず無事であった。

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クマに襲われて喜んで帰った奇特な人も

 同じ年の8月2日、男性登山者Mさん(32歳)は、六ツ石山を目指し1人で石尾根を登っていた。午前10時45分ごろ、六ツ石山山頂付近で、30メートルほど離れた山の斜面を登っていく親子連れのツキノワグマと遭遇した。Mさんは立ち止まったが、親グマがMさんに気づいて振り返ったとき、Mさんと親グマの目が合ってしまった。親グマは反転し、Mさんのほうに向かって猛烈なスピードで駆け降りてきた。Mさんは登山道を必死に走って逃げた。しかしすぐに追いつかれ、Mさんが振り向いた瞬間、クマの前足がMさんの顔面を襲った。Mさんと親グマは、もつれ合ったまま4~5メートル斜面を転げ落ちた。親グマはすぐMさんのもとを離れ子グマのいるほうに駆け登っていき、そのまま子グマとともにブッシュの中に立ち去った。