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 Mさんは自力で下山し奥多摩病院で手当てを受けた。右顔面に全治10日間の割創を負った。病院の帰りMさんは奥多摩交番に顔を出し、状況を説明したのだが、「私は自然保護に興味を持っているので、恐かったがいい体験をした」と、むしろ喜んで帰っていった。我々から考えれば奇特な人である。

 いずれも1995年の事故である。それからも何件かの人身被害は発生しているが、人が死に至ったものはない。 

写真はイメージです ©AFLO

クマとの遭遇を想定することが大切

 もともとツキノワグマは警戒心が強く用心深い動物である。また視力はあまりよくないが、鼻と耳の感覚が優れていて、嗅覚と聴覚に頼って生活している。だから人間がクマの存在に気づく前にクマのほうが先に察知し、自分からその場を離れていくケースがほとんどである。クマ避けの鈴やラジオなどを携帯して、常にクマに対して自分の存在をアピールすることが大切だ。

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 その点、いま山で一番張り切っているおばさんパーティは安全だ。「ワイワイ、ガヤガヤ」。クマは遠くで察知して逃げていくこと請合いだ。

 私は二度クマに遭遇している。一度は、私が尾根道を歩いていると、沢を挟んだ対岸の斜面を親子連れのツキノワグマが登っていくところだった。私に気づいた2頭は、転げそうになりながら、一目散に急斜面を登っていく。離れているのだから、なにもそんなにあわてなくてもよさそうなものだが、クマは人間が恐いのだ。

 二度目は、キノコを採りに山梨県の一ノ瀬に行ったときだ。林道を自動車で走行しているとき、突然クマと出喰わした。切り通しの林道で避ける場がない。しかたがないので、逃げるクマの側方(そくほう)を自動車で追い越した。クマは反転し、後方に走り去ったのをバックミラーで確認できた。

 登山者が一番知りたいことは、「注意しているにもかかわらず、クマと出喰わしてしまったらどうするか」ということだろう。そのときの状況でケース・バイ・ケースだろうが、ここに専門家の書いたものがあるので、かいつまんで紹介しておこう。