奥多摩は「東京の山」という手軽なイメージもあって、ジーパン、スニーカーなどで、運動などあまりしたことのない人まで出かけてくる。ところが、奥多摩に来る登山者にもあまり知られていないが、青梅警察署管内の山岳遭難事故だけでも年間40~50件前後発生し、死者・行方不明者は平均5~6人に上る。これに五日市警察署、高尾警察署などを合計すれば、東京都の山で発生する山岳事故は100件ほど。死者・行方不明者も10人弱になるという。

 ここでは、20年間、警視庁青梅警察署山岳救助隊を率いてきた金邦夫(こん・くにお)氏が、実際に取り扱った遭難の実態と検証を綴った著書『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』(山と溪谷社)より一部を抜粋。登山中の飲酒の危険性について紹介する。(全4回の4回目/3回目から続く)

写真はイメージです ©AFLO

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行動中の飲酒は禁物

 山に登る人は男女を問わず一様に酒が好きなようだ。シーズン中の奥多摩は土曜日、 日曜日の夕方ともなると、どの飲み屋さんも下山してきた登山客でいっぱいだ。 

 登山者にも行きつけの飲み屋さんがあるらしく、餃子屋、焼鳥屋、蕎麦屋、スナックなどで打ち上げ、下山祝いを派手にぶち上げる。ほとんどが中高年者であることは言うまでもない。

 山に登る前から、これを楽しみにしている人もいる。疲れた体にアルコールが入ることによって1日の行動の喜びが倍加する。

 ご多分にもれず我が警視庁山岳会も酒好きが多い。月1回の集会が終われば、みんなで居酒屋へ直行する。そしてああでもない、こうでもないと、山の議論を戦わせるのだ。また、年に2回行なう合宿なども、酒がなければはじまらない。ザイルの重さは感じるが、酒の重さは感じない者もいる。4リットルの焼酎を平気でベースキャンプまで担ぎ上げる。そして1日の岩登り、また雪山の縦走などで疲れた体をアルコールによって内側から温め、狭いテントの中で岳友と快い疲労感に酔うのだ。酒は1日の疲れをとり、快適な睡眠を約束してくれる。ただ飲みすぎなければの話だが……。 

注意力も散漫になり、事故を引き起こすことも

 もちろん行動中の飲酒は厳禁だ。酒が人体に与える影響について、学問的なことは知らないが、酒を飲んで車を運転して交通事故を起こすドライバーをいやというほど見ているし、酒気を帯びて車を運転すれば警察官に捕まり処分されるのだから、危険がともなう山において、酒を飲んで行動していいはずはない。アルコールは神経をマヒさせ、注意力も散漫になる。また心臓にも影響し、鼓動が早くなりすぐ息が上がる。