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「これは酔っ払いの寝込みではない」奥多摩の山頂で57歳男性が泥酔→遭難…元山岳救助隊員が語る“けしからん登山客”の正体

『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』より #4

2023/05/03

genre : ニュース, 社会,

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大声で呼んだり、体を揺すっても反応がない遭難者

 とりあえず私と平山救助隊長は先発隊として塩地谷から入山することとした。山岳救助車に資材を積み込み、川乗林道を終点まで飛ばした。塩地谷出合に車を停めて、丸山を回り込み、仕事道を走るように登って、曲ヶ谷北峰に出た。119番にも転送されたとみえて、消防庁のヘリコプターが出て、川苔山頂付近を旋回している。私たちは川苔山頂に急いだ。

 山頂ではちょうど昼食時なので大勢の登山者が弁当を開いていた。ウスバ尾根は川苔山頂から西側に急激に落ち込む尾根だ。尾根は防火帯として広く刈り込んでいる。 

 急なつづら折りの登山道を飛ぶように下る。傾斜は徐々に落ち、両側は鬱蒼とした広葉樹林帯となる。消防のヘリは尾根の真上でホバリングし、航空隊員がホイストで下降するのが見えた。

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 現場に着くと、尾根上の少し平らな登山道にビニールシートが敷いてあり、そこから3メートルほど下の北側斜面に遭難者は転げ落ち、仰向けに横たわっている。すでに消防の航空隊員2名も到着して遭難者を覗き込んでいた。

 遭難者は大きないびきをかき、いくら大声で呼んでも、体を揺すっても反応がない。 

 平山救助隊長は無線で警視庁に報告を入れ、私と消防隊員とで遭難者を担架に乗せた。 

焼酎2合瓶と缶酎ハイの空き缶5個を飲酒

 まわりの木の丈が高いため、この現場からはヘリに吊り上げることはできない。100メートルほど下の尾根上が木々も切り開けている。担架をそこまで運ぶことにした。 

 少ない人数で足場の悪い山道を担架搬送することは容易ではない。大汗をかきながら搬送を終えると、ホバリングしているヘリからホイストが下降してきた。担架をホイストに着装すると、もの凄い風圧のなか、担架は吊り上げられヘリの中に収容された。 

 2名の消防航空隊員もそれぞれホイストで吊り上げられて中に消えると、ヘリは大きく旋回し川苔山から飛び去っていった。

 しばらくすると、百尋ノ滝から横ヶ谷沿いに登ってきた後発の山岳救助隊員が続々と到着したが、遭難者をヘリで搬送してしまったあとであった。とりあえず現場まで戻り、遭難者の荷物を確認するとザックの中に健康保険証が入っており、遭難者は神奈川県K市居住の会社員Kさん(57歳)らしいことがわかった。登山道に敷いたシートのそばには、空になった焼酎2合瓶、缶酎ハイの空き缶5個が転がっていた。また2メートルほど下の斜面には嘔吐(おうと)したと思われる吐瀉物(としゃぶつ)があった。