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山はおそろしい

「これは酔っ払いの寝込みではない」奥多摩の山頂で57歳男性が泥酔→遭難…元山岳救助隊員が語る“けしからん登山客”の正体

『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』より #4

2023/05/03

genre : ニュース, 社会,

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川苔山の風流使者

 なぜKさんはこんな山頂直下でゲロを吐くまで酒を飲んだのだろう。酩酊して、下山時のことは考えなかったのだろうか。

 あたりはコナラ、カラマツなどの木々に囲まれ、夏の日差しは届かない。サワサワと風が鳴って下界と違う別天地である。そこにシートを敷き、ひとり酒を飲みながら風雅の境地に浸ったのだろうか。

「幾山河越えさり行かば寂しさの」とか「分け入っても分け入っても青い山」などと、牧水の歌や山頭火の句を吟じていたのかもしれない。

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 明治期、日本山岳会を創立し、初代会長となった近代登山の草分け小島烏水(こじまうすい)の著書に『山の風流使者』がある。その中に烏水は書いている。「そもそも風流とは何ぞ。極意を問わば、身も心も挙げて、自然に放下するのいわれに非ずや」、また「風流の道は古来多く旅を以て貫かるるものと為(な)すが如(ごと)し。小なる人間より、大なる自然に、回帰することに依って測り知ら可(べか)らざる幸福を見出す」と。

今度は酒を持たずに登山を堪能してほしい

 Kさんも単なる酔っ払いではなく、川苔山の風流使者であったと信じたい。ただ、ちょっと酒の量が過ぎて気持ちが悪くなり、道から外れたところにゲロを吐こうと屈んだとき、傾斜のため足がもつれて前のめりに3メートルほど落ちたのだろう。頭から落ちたため、その拍子に頭がプッツンしたのではないだろうか。

 その後Kさんは回復したものだろうか。私も病院には電話していないし、Kさんや家族からの連絡もないのでその後の安否はわからない。なんとか元気になってほしいものである。そしてこんどは酒など持たずに山に入り、大いに風雅を堪能してほしいものである。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

「これは酔っ払いの寝込みではない」奥多摩の山頂で57歳男性が泥酔→遭難…元山岳救助隊員が語る“けしからん登山客”の正体

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