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「これは酔っ払いの寝込みではない」奥多摩の山頂で57歳男性が泥酔→遭難…元山岳救助隊員が語る“けしからん登山客”の正体

『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』より #4

2023/05/03

genre : ニュース, 社会,

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 事故に直結する状態になることは確かだ。全国的にみてもアルコールの入った状態で事故を起こしたという報告も多い。

 たまに奥多摩の山でも、山頂において乾杯している光景を見受けることがある。行動中の飲酒は厳に慎み、下山してから思いっきり飲んでほしいものだ。

事故の連絡は夕方が最も多い

 土曜日、日曜日の朝、登山者で満員に膨れ上がったバスを、私は山岳救助隊のある奥多摩交番の中から見送る。みんな事故なく下山してくれることを祈りながら。

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 そして夕方再び満員で帰ってくるバスを見るとホッとした気持ちになる。事故の連絡が入るのは夕方が最も多いからだ。

 氷川まで歩いてくる登山者もいる。重い登山靴を引きずり、疲れ切って下りてきた登山者が交番前のスーパーの自動販売機にコインを入れて「ゴトゴトン!」と大きな缶ビールを出し、うまそうに飲んでいる姿がよく見受けられる。「ご苦労さん」と思わず声をかけたくなる。 

写真はイメージです ©AFLO

山頂直下で酩酊

 1998年8月11日、午前10時59分「酔っ払いの寝込み」と110番が入った。奥多摩交番で待機していた私と平山救助隊長がパトカーで現場に向かった。「真昼間から酔っ払いとはどういうことだ」と、日原川の大沢マス釣場近くの公衆電話のところに急行した。そこには登山姿の訴出人であるSさんが待っていた。

 車から降りて事情を聞くと、Sさんは今朝早く、鳩ノ巣から川苔山に登山した。山頂で少し休み、ウスバ尾根を百尋ノ滝方向に下山を開始した。午前9時30分ごろ、山頂から200メートルほど下った尾根上の、登山道から少し外れた北側の斜面に、男性登山者が仰向けに寝ており、大きないびきをかいていた。いくら呼んでも返事はなく、強い酒の臭気がしたという。ちょっと不審であったためSさんは急いで下山し公衆電話で110番したというものであった。

「これは単なる酔っ払いの寝込みなどではない。遭難事故だぞ」と判断し、110番に概要を説明して山岳救助隊が出動する旨を連絡した。私と平山救助隊長はいったん奥多摩交番に引き返し、山岳救助隊を召集した。