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「親グマが猛烈なスピードで駆け降りてきて…」「前足が顔面を襲った」奥多摩の山道で起きた“ツキノワグマ遭遇事件”の顛末

『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』より #3

2023/05/03

genre : ニュース, 社会,

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 奥多摩は「東京の山」という手軽なイメージもあって、ジーパン、スニーカーなどで、運動などあまりしたことのない人まで出かけてくる。ところが、奥多摩に来る登山者にもあまり知られていないが、青梅警察署管内の山岳遭難事故だけでも年間40~50件前後発生し、死者・行方不明者は平均5~6人に上る。これに五日市警察署、高尾警察署などを合計すれば、東京都の山で発生する山岳事故は100件ほど。死者・行方不明者も10人弱になるという。

 ここでは、20年間、警視庁青梅警察署山岳救助隊を率いてきた金邦夫(こん・くにお)氏が、実際に取り扱った遭難の実態と検証を綴った著書『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』(山と溪谷社)より一部を抜粋。奥多摩に出現したツキノワグマについて紹介する。(全4回の3回目/4回目に続く)

写真はイメージです ©AFLO

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奥多摩のツキノワグマ

 1999年4月14日、カタクリを見に御前山に登った女性登山者から、「体験の森付近でツキノワグマを目撃した」との情報が山岳救助隊に寄せられた。奥多摩の山地には50頭前後のツキノワグマが棲息すると専門家はみている。奥多摩のクマは普通12月ごろから4月ごろまで冬眠すると言われているが、今年も2月に川苔山で親子連れのクマが、登山中の高校生によって目撃されているから、冬眠しない個体もいるのかもしれない。これも暖冬のせいか、それとも冬眠前にドングリなどの餌が少なく、十分な体脂肪を蓄えることができなかったからだろうか。

 ツキノワグマは食肉類というグループに分類されるため、一般の人は猛獣というイメージをもち、実際よりも大きな動物として想像しているようだが、北海道に棲息するヒグマなどに比べるとずっと小型で、体重は平均的なオスで約70キロ、メスで約40キロくらい。体長は110~170センチ程度で、ちょうど人間の大人ぐらいなものだ。食べ物は雑食性で、春はフキ、タケノコなどの山菜、冬眠前の秋にはドングリ類など大量の植物質を食べる。動物質としては夏期にハチやアリ、虫の幼虫などを食べる程度のものだ。