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「昆虫食」は本当に飢餓対策になるのか?サル化する社会で私たちがすべきこと

堤未果×内田樹対談♯2

2023/04/29

source : ライフスタイル出版

genre : ニュース, 社会, 経済

note

昆虫食を承認したEUの現状は…?

 はい、そういうのとは全然違いますね。だからメディアや芸能人が「意外に美味しいです!」というのを聞いても、内田さんのように「えええ、なんで今コオロギ?」と首を傾げて食指が動かない人が少なくないのも無理はありません。イナゴを食べてきたじゃない!と言われても、それなら尚更、日本人が今までずっとコオロギだけは食べてこなかった理由があるわけですし。漢方薬の世界ではコオロギは妊婦さんにはNGでしょう。甲殻類アレルギーがある人にはリスクがあるのに、いきなり給食に入れてしまう学校にも違和感を感じました。あれはアメリカならすぐに親が訴訟を起こすでしょう。

 今後大量生産する際に使われるゲノム編集技術の問題もあるし、「ムーンショット計画」で将来の持続可能な食料として昆虫推進を公表しているのなら、政府はこの辺りは拙速にせず、情報公開しながら民主的に進めていかなければダメだと思います。実はコオロギに限らず、遺伝子組み替えでもゲノム編集でも、今日本は食について企業ファーストが年々強くなっているので、私たち消費者は置き去りにされていることにちゃんと意思表示しないといけません。

 昆虫食を承認したEUでも、イギリスは早速給食に導入、イタリアやハンガリーでは国民の声を聞いた閣僚たちが予防原則をとって昆虫食を規制する法律を可決するなど、あそこも一枚岩ではないですからね。今日本でコオロギ養殖は畜産農業の枠で認定農業者として国からいろいろな補助金がもらえますが、昆虫食が推進される一方で、国内の酪農家や畜産農家は政府に「親牛1頭処分で15万円支給」などと言われて輸出産業の犠牲にされている。国にとっての、食の安全保障とは何か?と思わざるをえません。

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内田 資本主義と食文化はそもそも食い合わせが悪いんです。資本主義的に考えると、地球上の全人類が、同じ原料から作られた同じ食品を同じ料理法で食べるという食文化が均質化された状態において利益が最大化する。だから、何とかして全世界の人間が同じような食品に欲望を感じるように誘導します。食文化が均質化すれば、大量生産、大量流通、大量消費が可能になりますが、食文化が多様化していると、それができない。

 資本主義企業が食に関与してくると、食文化を均質化すること、食べられるものの種類を減らすこと、調理法を限定することをめざすようになる。これは当然なんです。

 この点で資本主義は食文化と正面衝突します。というのは、人類が食文化をこれまで豊かなものにしてきたのは「飢餓の回避」のためだからです。