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「昆虫食」は本当に飢餓対策になるのか?サル化する社会で私たちがすべきこと

堤未果×内田樹対談♯2

2023/04/29

source : ライフスタイル出版

genre : ニュース, 社会, 経済

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「企業が農業に参集するのに100%反対です」その理由は…

 豊かな四季と湿度をもつ日本に帰国して、多様な食文化に感動しました。お米の品種だけでも300種類以上あるというのは有事にとても心強い話です。なのに、政府はどんどんお米の種類を減らして、農業の企業参入を強力に後押ししている。つい先日も企業が農地を買いやすくなるよう、また規制緩和していて、自国の食料自給を守るどころか危うくしているとしか思えません。

©AFLO

内田 僕は、企業が農業に参入するのには100%反対です。絶対に企業に農業をさせてはいけない。というのは、農業が成立するためには、「農業ができる環境」を整備することが前提にあるということを企業は理解していないからです。

 森林、海洋、河川、湖沼といった生態系がきちんと整っていてはじめて農業は成立します。伝統的な農業従事者は、山林や河川の保護整備を「不払い労働」として担っていた。山に入って下枝を刈ったり、水路や道路を整備したりということは日常業務として行っていた。

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 でも、企業が農業に参入してきたとき、彼らは「農業ができる環境の整備コスト」を負担するでしょうか? 僕は絶対にしないと思います。資本主義企業の本質は「コストの外部化」です。できる限り、コストは誰かに押し付ける。

 この場合、環境保全コストはたぶん地元自治体に押し付けるでしょう。自分たちはこれだけの土地を買った。その土地については、生産性を高めて、価値の高い農作物を生産することは保証する。でも、自分の土地でもない山や森や川の整備コストは引き受ける義理はない。そんなものは自治体が税金で行うべきだ。企業は必ずそう言います。「農業ができる環境を整備するのは自治体の責任であり、自治体がそれを果たさないというのなら、われわれはここから出てゆく」と、必ずそう言います。

 企業を誘致した自治体は、それで法人税が入るとか、雇用が創出されるとか、地元への経済波及効果があるとか、そういう算盤ははじいているでしょうけれども、企業が農業できる環境整備コストを負担することについてはたぶん何も考えていない。そのうち、環境が劣化して農業が不可能になったら、企業はさっさと撤退するでしょう。後には巨大な耕作放棄地と、もう農業を営むことができなくなった破壊された生態系だけが残る。

 グローバル化の悪い副作用ですね。企業は自由にどこでもビジネスができて、法人税と人件費が一番安くて環境規制が一番緩い国で生産し、輸出して儲ける。使えなくなったら次へ行く。これは農業でも漁業でも林業でも問題は全く同じです。