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携帯の登録に20件以上の「借金」さん

 悪魔の囁きに乗った森下さんは、さっそく各カードローン会社から頻繁に届く督促ハガキから逃れるべく、引っ越しを敢行。その際、転居届は役所に提出せず、本当の居場所を隠し通したそうだ。

「もともと大した重要書類なんて届かないので、住所ごと捨てちゃおうと思いまして。実際、住所を移さないせいで困ったこともなかったです。

 督促電話も、1度かかってきた番号は『借金』という名前で登録して、2度と出ない。すると相手は電話番号を変えて連絡してくるんですが、そのたびに『借金』と登録し続けたので、最終的に僕の携帯には20人以上の『借金』さんがいました。それを3カ月も続けたら、その類の連絡は年1レベルに減ってましたね。ただし気がついたら、連絡してくるのがカード会社ではなく、債権回収会社に変わっていました。どこかのタイミングで債権が譲渡されたんだと思います」

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 さらに森下さんは自ら法人を立ち上げ、自身への報酬を計上しないことで給料への差し押さえリスクも回避。その後、債権回収会社からなんの音沙汰もなくなったため、6年も経つ頃には改めて転居届を出し直したという。

「ただ、債権回収会社も意外と粘り強く、転居した途端に僕の居場所を突き止めて、また督促のハガキを送ってくるようになり、なかには訴状を送ってくる会社までありました。

 でも、ふと冷静になってネットで調べると、借金の時効は最終の支払い歴から5年間とのこと。知らぬ間に、私の借金は効力を失っていたんです。すぐに弁護士に連絡して時効援用に必要な書類を作成してもらい、各回収会社に送りつけました。訴訟を起こしていた1社には、わざわざ裁判に出向いて書類を叩きつけてきましたよ。これでやっと堂々とシャバを歩けると、胸がスッとしました」

 こうして、森下さんは自己破産することもなく500万円以上あった借金をすべて帳消しにしたが、ここまでうまくことが運ぶケースは稀だろう。退職のタイミングや、当時の森下さんには身近で迷惑をかける家族がいなかったことなど、あらゆる悪運が重なった結果のように思われる。

 森下さん自身も、「これは追い詰められてしょうがなくしたこと。ストレスもあったし、数十万円程度だったら絶対に切っていないカードでした。あと、あのとき以来、株はすべて現物で買うようにしていて信用取引は一切していません」と当時を振り返り、いまは借金と無縁の生活を送っている。くれぐれも、クレジットカードやカードローンは、自分の経済力と向き合いながら利用してほしい。