「どうだい国基研は。いいだろう」
雑誌『正論』といえば、一応大学図書館等にも常備されている定期刊行物だが、発行部数は書くまでもなく大勢力ではない。まず保守界隈の中での「斜陽的ブランド」といったところだろうか。この集会は『正論』の読者がほとんどで、日本の政治的右派の伝統的中核を担う人たちであった。彼らは全部シニアだった。
櫻井と田久保の基調講演は、「東アジア情勢の危機にあっての日米同盟の深化」というもので、伝統的な戦後保守の「親米反共」的なものに終始し内容は目新しいものではなかった。丁度この前年、尖閣諸島中国漁船衝突事件が起こった時代であった。
櫻井と田久保の基調講演が終わると同じホテルの会場の別フロアで食事会(二次会)ということになった。いわば芸能人や演歌歌手がよくやる「ディナーショー」である。1人2万円(税込か税別なのかは忘れた)というので、そんな値付けで誰も来ないと思ったが受付前に老人たちが大挙して列をなしている。すでに目算で50人は居る。
傍らで人員整理に腐心していたH君がいう。「どうだい国基研は。いいだろう。古谷君も青年部に入りなよ」。私は言葉を濁した。何と返答したかは正確に覚えていないが、ネガティブなニュアンスがH君にも伝わるような言い方をしたことは事実だった。
よって二度目の勧誘は無く、当然青年部への私の入会の件は自然消滅になった。とはいえそれで私とH君の交友が消えたわけでは全然なかった。そして青年部と言っても、後からわかったことだが8人しかおらず、その主力は40代だった。
驚くべきことに、H君は櫻井よしこの著作を山のように自室の床に積んでいたのだが、私が「初読としてどれがお勧めなのか」と聞くと、「これから読む(ので分からない)」と答えた。国基研の青年部の一員として活動しているのに、国基研の理事長である櫻井の本を一冊も読んだことが無いのだった。