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肺活量は残したほうがいい

――手術する場合でも、慎重に病院を選んだほうがいいですよね。

 そうです。小型の早期がんの場合、肺活量がどれだけ残せるか、病院の方針や医師の考え、腕によって違ってくる可能性があるからです。昔はがんというだけで肺を大きく切り取るのが当たり前で、肺活量のことはあまり気にしませんでした。しかし、術後の生活や追加の治療が必要になる場合のことを考えると、できるだけ肺活量は残したほうがいいのです。

 肺がん手術には大きく取るものから順に、侵襲(体の負担)が過大な片肺全摘、がんの標準手術である肺葉切除があります。さらに縮小手術には2種類あって、区域切除と部分切除があります。このうち区域切除は、腫瘍の位置を把握して肺実質を切断する必要があり、どれくらいマージン(腫瘍に併せて切除する正常肺部分)を取れば必要十分な切除ができるのかの判断も難しい。そのため、区域切除ができる症例にもかかわらず、技術的に無理だからと、肺葉切除にする病院があります。

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 とくに、完全モニター視下手術で区域切除をするのは難しいでしょう。立体的に肺を切る必要があるのですが、2次元のモニターだと立体視できないからです。その結果、どう考えてもやり過ぎとしか言いようのない肺葉切除をしている施設があるのは否めません。

 手術の傷は小さいに越したことはありませんが、付加価値に過ぎません。がんを完全に取り切ったうえで、肺活量をできるだけ残すことこそが、肺がん手術では最重要です。ですから、開胸か胸腔鏡かにこだわらず、根治性や肺活量のことを念頭に置いて、セカンドオピニオンを聞いてください。現時点では縮小手術は標準手術ではないので、適応を専門医に確認することも忘れてはなりません。

――進行がんもセカンドオピニオンを聞いたほうがいいですよね。

 もちろんです。リンパ節転移や周囲への浸潤があって、「手術できない」と多くの医師が言うようなⅢa〜Ⅲb期のがんでも、抗がん剤や放射線が効いてがんが小さくなり、手術で完全切除できることが少なからずあるからです。

 そのような患者さんは、術前の抗がん剤や放射線の影響で手術操作が難しくなるうえ、心臓・大血管、胸壁なども切除する拡大手術が必要になることがあります。非常に高度な技術が必要なので、「内科に行ってください」というほうが実は外科医には楽なのです。

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 ですが、肺がんの多くは、手術で完全切除しない限り治りません。もちろん、手術できるかどうかは患者さんの年齢や体力によりますし、患者さんのご希望も手術の可否に重要です。ただ、手術を含めた厳しい治療に挑まない限り、5年後の小さな光は見えません。進行がんだからといって、端から諦めるべきではないのです。

 それだけに、拡大手術ができることも、呼吸器外科医に不可欠な条件の1つと言えるでしょう。ところが近年は、早期がんが多く見つかることもあって、若い医師は簡単な手術を胸腔鏡、とくに完全モニター視下で行うことに慣れてしまっています。前述のとおり拡大手術は難しいので、手術を避けたがるのです。しかし、これでは患者さんは助けられません。

 それに、外科医であっても肺がんを治療するならば、抗がん剤や放射線のことも知っておくべきです。その点、広島大学病院では、病理医、放射線診断医、放射線治療医、呼吸器内科医、呼吸器外科医などが集まる「キャンサーボード」を毎週開いています。全症例の治療方針を議論しているので、他の専門性の高い分野についても、ハイレベルな知識を身に付けることができます。

 実は、最初の診断から手術治療、術後病理診断、数年にわたるフォローまで、ずっと患者さんと関われるのは外科医の特権です。がんを患う以外は元気な人にメスを入れるのですから、責任も重大。勉強を怠ることはできません。