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連載春日太一の木曜邦画劇場

クールでニヒル。ウィドマーク似のこの主人公は佐藤允だったのか!――春日太一の木曜邦画劇場

『吼えろ脱獄囚』

2023/05/17
1962年(75分)/東宝/2750円(税込)

 筆者が映画好きになったのは、両親の影響が大きい。

 いずれも映画をよく観る人で、子どもの頃から映画館に連れていかれたり、一緒にレンタルビデオを観たりしているうちに、気づいたら自分もその世界にハマり込んでいた。

 父親は昔の西部劇やアクション映画をよく観ていて、特に好きだったのがリチャード・ウィドマーク。かつての西部劇やギャング映画の悪役として鳴らした俳優だ。爬虫類的な冷たく不敵な雰囲気の持ち主で、眼光が鋭く、骨ばった顔つきで笑い、どこか知的でニヒルな感じがする。父とともに彼の出演作を観ているうちに、筆者自身も好きになっていた。

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 話は飛んで、つい最近のこと。新発売のDVDのパッケージを目にして、ビックリした。「え、リチャード・ウィドマークが日本映画にも出ていたの――?」と。

 それが、今回取り上げる『吼えろ脱獄囚』だ。そのパッケージに写る、ソフトハットにトレンチコートという出で立ちの男が、パッと見ではリチャード・ウィドマークにしか思えなかったのだ。

 だが、そんなはずもなく、その正体はなんと佐藤允だった。佐藤允の顔といえば、爬虫類系のリチャード・ウィドマークとは対極の、ゴツゴツした岩石系の印象がある。それだけに、ここに写るのが佐藤允だと思いも寄らなかった。

 物語は、弟殺しの冤罪を着せられた竜介(佐藤)が脱獄するところから始まる。竜介は真犯人を見つけ復讐するべく、夜の街へと潜り込む。

 脱獄に成功して早々に佐藤はパッケージ通りのギャングルックに。これが意外なほど似合っていた。パッケージのダンディさは、写真によるマジックではなかったのだ。

 演じるキャラクターも、そうだ。佐藤允はカラッと明るい「陽」の特性を活かし、熱い直情型の豪傑的な役柄を得意としてきた。だが、本作では違う。声のトーンを落し、感情をあまり表に出さず、終始クールに決めている。

 それが、福田純監督ならではのバタ臭く小洒落たハードボイルドの世界にマッチ。地下のボイラー室での潜入刑事(夏木陽介)との対峙シーンで、闇で銃を構える姿も実に様になっており、佐藤允にニヒルな魅力もあったのか――と、新たな発見があった。

 その一方で、終盤になると「これぞ佐藤允」という熱いヒロイックさも横溢。殺し屋・ジョー(中丸忠雄)との銃撃戦で互いに楽しくなってきた際の爽やかな笑顔や、黒幕(田崎潤)に対する猛烈な怒りの表情、黒幕を倒しての底抜けに豪快な笑い方など、従来の佐藤允ファンも存分に楽しめる内容になっている。

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