事前にタイトルやキャストの感じから想像した内容と、実際に観ての印象が大きく離れている映画は少なくない。
特に旧作邦画、ことに喜劇がそうだ。「さぞや楽しいコメディに違いない」と思わせておいて、観終えたら苦い余韻を残す作品がかなりある。
今回取り上げる『大日本スリ集団』も、そんな一本だ。
タイトルからすると、スリの組織に焦点を当てた内容だと考えられる。そして、その頭目を演じるのは三木のり平。しかも役名は「平平平平」と書いて「ひらだいらへっぺい」と読ませるという、実に人を食ったものになっている。
これだけの要素が揃えば、「スリたちの活躍を面白おかしく描いた、抱腹絶倒コメディ」としか思えない。実際、前半は予想通り、楽しく進む。
舞台は大阪。平平の率いるスリ集団の様が描かれる。藤本義一が原作と脚本を担当しただけあり、スリたちの生態から見えてくる大阪らしい猥雑さがたまらなく魅力的だ。
まず、スリ集団の設定がユニークだった。近代的に組織化されていて、「平平組合」を名乗り、組合員の収入は毎月の給料制なのである。アパートの一室に若手を集め、平平がシゴキながら特訓――熱湯を注いだ鍋に指を突っ込むなど――する姿も面白い。
個々のメンバーのキャラクターも際立っている。中でも通称「フランス」(平田昭彦)と「ガキチ」(砂塚秀夫)のコンビがステキで、本来は街中で目立ってはいけないスリなのに、ド派手な洋装で犯行を重ねていく。
そして何より素晴らしいのは、平平のスリ観だ。
「スリは命をかけた芸術家やで!」「江戸時代からスリの技術を伝える重要文化財のような存在なんやで。政府に目があるのやったら、いの一番にワイを人間国宝に指定せないかんとこなんやで」――、臆面なくこうしたセリフを言い放つ様は、実にピカレスクな魅力に満ちている。
ところが、後半になるにつれ様相が変わっていく。本作のもう一人の主人公は平平の戦友でもある刑事の船越(小林桂樹)だ。激しくスリを憎悪する船越とは、時に戦友同士として親交し、時にスリと刑事として対峙してきた。それでも、互いの根底には熱い友情が流れ続けていた。
だが、船越の強引な捜査によりフランスが事故死したことで、状況は変わる。平平が復讐を企てるのである。
そこからは一転して重くシリアスな展開に。そして迎えるのは、哀しい末路だった。
平平による「最後のスリ」は強烈な哀愁が漂い、三木のり平の、ただ笑わせるだけではない「喜劇役者」としての凄味が伝わってきた。