1970年(89分)/東宝/2750円(税込)

 二〇二〇年に急死した岡田裕介は、父・岡田茂の後継者として東映の社長、会長の座に長く君臨していた。

 その一方で映画プロデューサーとしても活躍。『宇宙からのメッセージ』『北京原人 Who are you?』といったSF映画、『まぼろしの邪馬台国』他の吉永小百合主演作など、常人は考えつかない野心作を製作している。

 ただ、その映画人生のスタートは、俳優だった。そして、代表作にして映画デビュー作でもある『赤頭巾ちゃん気をつけて』が廉価版でDVD化された。そこで、今回はこれを取り上げてみたい。

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 本作は、庄司薫の芥川賞受賞作が原作。岡田裕介が演じるのは、主人公の薫だ。

 薫は受験を間近に控える高校三年生なのだが、第一志望の東大は安田講堂の学生闘争により入学試験は中止になった。さらに、風邪を患い、つまずいて足の爪をはがし、愛犬を亡くし、恋人とは喧嘩――と悪いことが重なる。

 本作は、大きく何かが起きるわけではない。薫の悶々とした日常が、一九七〇年前後が舞台の青春映画らしい、アンニュイでリリカルな雰囲気の中で描かれる。薫はずっとウジウジしていて、ひたすら内省的で理屈っぽい。そんな薫に岡田裕介はピッタリだった。

 やや甲高く、舌足らず気味で鼻にかかったような声。七三分けのよく似合う、青白い瓜実顔。ぼやっとした眼差し。ヤクザや名うてのスターたちをも寄せ付けない、強面の持ち主だった父・岡田茂とは全く異なっていた。あらゆる面で「温室栽培のお坊ちゃま」的な蒼い若さを醸し出している。これが、薫の内向感を完璧に体現していたのだ。

 岡田裕介とは、人生で一度だけ会ったことがある。それは二〇〇三年の末頃、「芸術職採用」という制作者枠の募集を東映が復活させた時のこと。筆者は幸運にも最終面接まで進んだ。その際、面接官として対峙したのが、当時社長の岡田裕介だった。目の前にいる社長は、本作の青々しさからは遠い、貫禄ある風貌をしていた記憶がある。

「かつて鶴田浩二が主演した頃のような、荒々しく情念に満ちた東映映画を復活させたい」と熱く語る筆者に対し、「そういうのが、ウチは一番いらないんだ!」と岡田裕介は言い放った。驚いたのは、見た目は大きく変わっていても、声は薫そのものだったことだ。舌足らずで鼻の詰まったような声を耳にすると、そこにいるのは「その後の薫」にしか思えなかった。

 それならば筆者の考える東映イズムとは対極的なものだし、ああいった映画をプロデュースするのももっともなことだ――と変に納得できた。