Watashi,kareshi kara nagai jikan naguru moratte inu mitai de uchi no naka de kowakuke matte imashita.
(わたし彼氏から長い時間殴るもらって 犬みたいでうちの中で怖くて待っていました)
これはスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が遺した直筆メモ。ローマ字で書いたものだ。
実は彼女はDV(ドメスティックバイオレンス)の被害者だった。
送られてきた脅迫状もローマ字だった
名古屋入管に収容されていた時、DVの相手の男から手紙が届いた。こちらもローマ字で書かれた脅迫文だった。
ANATA SAGASUTE BATSU YARU
((帰国したら)あなた 探して 罰やる)
〈スリランカに帰国するまで私の家族が待っている〉
〈私がスリランカに帰ったらあなたを探して罰する〉
そんな内容だ。
手紙で脅えたウィシュマさんはいったん入管当局に同意した強制送還を拒否し、日本で生活したいと意思を示すようになった。
こうした事実の詳細を東京中心の主要テレビは伝えていない。
名古屋の制作者たちがドキュメンタリーでは伝えているものの、ニュース番組であまり報道されていない。
彼女の“人生”に触れる数少ないドキュメンタリー
名古屋の入管施設に収容された末、適切な医療行為を受けられずに2021年3月に死亡したウィシュマさん。
体調が悪化する中で「病院に行きたい」と懇願した彼女を放置したあげく、死に追いやった入管職員らの対応に大きな批判が起きた。非難の渦が強まる中で同年、政府与党は国会に提出していた入管難民法改正案を取り下げ、同案は廃案に追い込まれた。
2年前に外国人収容のあるべき姿をめぐって議論が白熱した背景には、“入管政策の犠牲者”として伝えられたウィシュマさんの存在が大きい。来日した妹2人が国に対して賠償を求めた裁判では、入管の監視カメラ映像が遺族側に開示された。衰弱が激しいウィシュマさんを見殺しにするような職員の対応は、およそ先進国と思えない人権感覚を欠いたものだった。
一方で東京発のテレビ報道は、彼女を犠牲者として象徴的に扱いながら詳しい経緯を伝えない。来日後の彼女に焦点を当てる報道は見当たらず、彼女の人間性を伝える番組はわずかしか記憶にない。いずれも名古屋の取材チームが制作したものだった。
大型連休中の2023年5月3日にNHK総合がウィシュマさんの人生に焦点を当てて全国放映したのが「事件の涙 姉ウィシュマをたどって 名古屋入管 収容女性の死から2年」(以下、「事件の涙」)。制作したのはNHK名古屋放送局。2人の妹がウィシュマさんの来日後の日々をたどって歩くという構成で、彼女に関わった人たちの証言がベースになっている。