「駅前広場に出ると…UFOが飛んでいた。空を」
ご当地ヒーローを横目に改札を抜け、小さな駅舎から外に出る。小さな町の駅とはいっても、羽咋駅には特急列車も停車する。能登半島の中部における主要都市のひとつでもある。
だから、駅前広場もなかなか大きく、常にタクシーが何台か待っているようなロータリーもある。駅ビルがあるわけでもないし、いつもたくさんの人が行き交っているような駅でもないが、地域の中心としての存在感はしっかりと備えている。
駅前広場に出ると……UFOが飛んでいた。空を。
いや、実際にはいくらUFOの町だからといってもそんなに都合良くUFOは現れてはくれない。駅前を飛んでいるのはUFOではなくて、UFOの形(つまりあの円盤状の……)を模した街灯であった。UFOの町というのだから、それくらいのオブジェはあって当然だ。
他にも夜になるとイルミネーションが煌めくのだろうとおぼしきUFOのオブジェもあるし、駅前の商店街には「UFOのまちへようこそ」という看板も掲げられている。
このUFOというところを除けば、羽咋駅前の風景は何の変哲もないありふれた地方の小都市の駅前でしかない。いったいどうして、この駅前にUFOが飛んでいるのだろうか。
なぜこんなにUFOが飛んでいるのか?
調べてみたら、実はそれほど突飛な町おこしというわけではないことがわかった。80年代、地元の古文書の中から「そうはちぼん」という伝承が見つかったのがきっかけ。
そうはちぼんというのは、羽咋一帯に古くから伝わる伝説のひとつで、山の中腹を東から西に向かって移りゆく怪しい火のことだ。それが実際にUFOの類い、未確認飛行物体だったのか、人口に膾炙しているUFOの造形そのものだったのかはよくわからない。わからないというか、実際にそんな怪火があったのかどうかも調べようがない。
が、いずれにしてもそのそうはちぼん伝説をもとにして、地元の人たちがUFOによる町おこしに発展させたのだ。NASAの元宇宙飛行士を招いて羽咋市内で宇宙に関するシンポジウムを開催したり、NASAやロシアから宇宙開発に関するあれこれを借り受けて、コスモアイル羽咋という宇宙関連の展示施設もオープンさせた。